The Wisely Brothers 真舘晴子の『タゴール・ソングス』評 心が通う歌の素晴らしさ

真舘晴子の『タゴール・ソングス』評

 パッと曲を聞くと、古くからあるその地域の民謡というイメージする人も多いと思うが、それとはまた違う気がするのである。それは、この歌を歌う人とそれを聞く人の表情を見るとすぐにわかるだろう。歌への気持ちは、それを目の前にした時の表情や仕草に出る。この映画の人々を見ていると、私は、歌っている人をあんな表情で見たことがあるだろうか?とも感じてしまう。大切な景色を見ているかのような表情だ。登場する地域の人々は、映画の出演に慣れているわけじゃないと思う。だから、おそらく恥じらいがあるのだけれど、それが自然に見えるのもいい。カメラに撮られているという、意識の中で存在する表情が、何だか心地よく見えるのだ。

 タゴールは、自分のいなくなった後も自分の作った歌が生きていくことを知っていたのだろうか? 「今から百年後—私の詩の葉を心を込めて読む人、あなたは誰か?」という歌詞がある。100年後の今、彼女たちが「タゴール・ソングス」を歌う時のまなざしを見ていると、タゴールはこの歌たちがどんな人に出会って、そんな自然の中に流れて、どんな愛に出会っていくかを、楽しみにしていたような気がした。

 私が今大切にしているものは、いつかの誰かの心に繋がることなのだろうか。作中に出てきて気になった曲たちの中に「あなたが居る」という曲がある。タゴールも自分の心の中に、誰かが居たんだ。

 バングラデシュのナイームは小さい頃に両親を亡くし、田舎から出てきて路上での暮らしを経て、今はタゴールを練習している。彼は、自分は愛を知らないと言うけれど、近くの子供たちみんなの夢をそらで言えたり、タゴールの歌を歌って、愛を与えているように見えた。彼の歌う「もし君の呼び声に誰も答えなくとも ひとりで進め」の歌詞は、その答えの行動のような気がした。タゴールは自分がいなくなった後も、ベンガル人に、歌を歌う人々に、それを偶然耳にする人々に、愛情を注いでいるんだ。

『タゴール・ソングス』をイメージして描いたイラスト(by真舘晴子)

 それは何だか、とても驚きだった。もし、自分がいなくなった後も、誰かを愛すことができたり、癒すことができたり、歌うことを楽しんでもらえるならば?

 今そばにいられなくても、歌は、いつかの誰かのそばにいることができるかもしれない。Velvetsの「But she’s not afraid to die…」の歌詞のように、タゴールの「もし君の呼び声に誰も答えなくとも ひとりで進め」の歌詞のように。

『タゴール・ソングス』予告編 / Tagore Songs_Trailer

■真舘晴子
The Wisely BrothersのGt/Voを担当。
都内高校の軽音楽部にて結成。オルタナティブかつナチュラルなサウンドを基調とし会話をするようにライブをするスリーピースバンド。
2014年下北沢を中心に活動開始。 2018年2月キャリア初となる1st full album『YAK』発売。
2019年7月17日に2nd Full Album『Captain Sad』をリリース予定。
公式サイト:http://wiselybrothers.com/
公式Instagram:https://www.instagram.com/wiselybrothers/

■公開情報
『タゴール・ソングス』
「仮設の映画館」にて配信中
ポレポレ東中野にて近日公開
監督:佐々木美佳
配給:ノンデライコ
(c)nondelico
公式サイト:http://tagore-songs.com/

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