ルネサンス期のイタリアで闘う女性の姿を描く『アルテ』 実際のアニメ界と深く共鳴するテーマ
2020年4月期のアニメで一際異彩を放っているのが『アルテ』だ。「16世紀初頭のイタリアを舞台に、絵描きを目指す少女の物語」は、主に異世界と日常を舞台にした作品がしのぎを削る当世アニメ界にあって、孤高の道を歩んでいると言っていいだろう。
原作は、大久保圭が2013年から『コミックゼノン』(コアミックス)で連載中の同名コミックで、本稿執筆時点で最新14巻が発売されている。大久保圭自身初の連載タイトル『アルテ』で、いきなりヒットを飛ばしての長期連載となったが、新人ながらも「どうしてもこの題材を描きたい」という情熱で連載を勝ち取ったという意欲作である(引用:マンガ質問状:「アルテ」 ヒロインの胸サイズで根負け|MANTANWEB(まんたんウェブ))。
連載作品のメディアミックス展開は、『コミックゼノン』発行元であるコアミックスのお家芸であるとはいえ、一見して地味であり、かつての「名作劇場」の様な枠の無い現在においてアニメ化しづらい題材であることは想像に難くない。だが本作こそは、昨年のNHK朝ドラ『なつぞら』で描かれたように、女性の社会進出と共に発展してきたアニメ界にとって正しく描くべきテーマを内包しているのだ。
16世紀を中心とするルネサンス期は「文芸復興」と呼ばれる時代。そこで主人公アルテは貴族に生まれながらも、画家となることを目指すのだが、純粋に絵を愛する「芸術家」としての画家ではなく、注文に応じ、絵を描く「職人」としての絵描きであるという側面は、本作のテーマと密接に関係している。
原作にほぼ忠実に展開する第1話で、娘の描いた大量の絵を焼き、画業を否定するアルテの母は、女に産まれた宿命を受け入れる前近代の象徴として描かれる。妻として、より裕福な貴族へ嫁ぐことこそが女の価値観の総てだという固定観念に自ら拘泥している母を「籠の中の鳥」になぞらえたアルテは、好きな絵を描くことに、自立する手段としての意味を自らに科す。そして後に師となるレオに対し、最初は「絵を描くのが好きだから」と、弟子入りの動機を偽り、最後に本当の理由を明かさせることで急速に師弟の絆を結ばせる演出は実に巧みであった。
キリスト教が布教され、中東からヨーロッパ全域に拡がったことで、古代に栄華を誇ったギリシャとローマの文化は長く否定された。中世以前、市民に対し抑圧的だったキリスト教は父権主義、女性差別的でもあった。アルテがその性別の故に折々にぶつかる障壁は、現代から見ればあまりにあからさまな性別に基づく差別ではあるが、しかし「ガラスの天井」という呼称があるように、21世紀を迎えたい未も解消されたとは言い難い。しかし先に述べたように、その創世記から女性が活躍してきたアニメ界には『アルテ』を通してその打破を訴えかける資格は充分にある。