『かくしごと』に溢れる『さよなら絶望先生』のエッセンス 神谷浩史と久米田康治の化学反応が再び
ふたり暮らしをする父と子の日常を描くアニメ『かくしごと』。『月刊少年マガジン』(講談社)で連載中の原作漫画は、第3期までアニメ化された人気漫画である『さよなら絶望先生』の作者、久米田康治が手掛ける作品だ。妻を亡くした父・後藤可久士が忘れ形見の娘・姫を育てるという、一見するとハートフルコメディのようだが、『さよなら絶望先生』で際立っていた久米田の感性が光る漫画原作が、そのまま動き出したかのようなアニメ作品である。
まず特筆すべきは、そのネーミングセンスだ。主人公である漫画家の後藤可久士は、漫画を「描く仕事」を娘への「隠しごと」としている。まさに名が体を表すネーミングは、『さよなら絶望先生』の主人公が「糸色望」という名を持つ教師で、絶望先生という愛称で呼ばれていたことを思い起こさせる。他のキャラクターも言葉遊びのような名を持つことが多く、可久士のアシスタントらは、チーフアシスタントの志治仰(指示仰ぐ)、消しゴム担当の芥子駆(けしかける)、筧亜美(カケアミ)、墨田 羅砂(墨足らすな)と、漫画制作に携わる者たちだとすぐに分かる名前をつけられている。名前だけでキャラクターの役割と性格が伝わるのだ。
この話は、『さよなら絶望先生』で望を演じ、今作では可久士を演じている神谷浩史も注目している。アニメ放送前に公開された久米田と神谷による対談ムービーにて、「名前に関連した性格づけがされていた」と語っている。神谷は『さよなら絶望先生』で、「絶望した!」という決め台詞に代表されるように、幾度も自死を企て、有名人を仄めかす皮肉な視線を持ち合わせるというネガティブの塊のような望に、淀みなく勢いのある演技で逆に生き生きした明るい美青年のような印象を与えた。さらに教師でありながら、気の利いた言葉をかけて思いがけず生徒を含む多数の女性から好意を寄せられてしまうという望の性質を演じ切った。
今作『かくしごと』の可久士は「ばれたらどーする!」を決め台詞とし、姫に漫画家の仕事がばれないよう立ち回りながらも、漫画家として働く中で辛く感じられるネガティブなあるあるを前面に押し出してくる、やはりネガティブなキャラクターだ。加えて、望と同じく女性たちに誤解されやすいという面も持ち合わせている。神谷は、可久士は望よりも落ち着いた声で、優しい父親として姫と向き合っている。一方で漫画家としての苦悩を語るときは、ネガティブな内容の台詞ながらも爽やかに感じられる。