『イエスタデイをうたって』における日常描写の魅力 テレビ朝日「NUMAnimation」の方向性は?

 絶妙なバランス感はストーリーの展開も同様だ。原作と比較した場合、TVアニメ3話の時点で2巻の中盤まで物語を進めるなど、非常にテンポが早いのだ。長期間連載されていた漫画のテンポとTVアニメのテンポは異なる上に、会話劇も多いため、原作を何1つ変えることなく制作すると間延びしてしまう可能性があるほか、1クールでは収まらなくなってしまうだろう。そんな中で、ストーリーの大胆なアレンジを行っている一方で、肝となる要素はきちんと捉えている。モノローグでの心情表現などの説明セリフもありながらも、最も重要な鍵となるのが、キャラクターの思惑が伝わるように配慮された演出だ。

 その例として、第1話の後半の陸生と晴が、日中の公園のベンチで座りながら語るシーンを挙げたい。ここでは陸生が自己変革を試みた話をしているが、晴の顔のアップの後に、陸生がタバコを持つ手元が丁寧に作画される。ここでは“晴がタバコと陸生の手元を見ている”ということが強調されており、陸生を通してタバコ=大人に対する憧れを抱いていると解釈することができる。第3話では晴の家庭環境が明かされており、年上の男性である陸生に対して好意を抱いている理由が、断片的に推測することができる。原作では10代の晴がタバコを吸うシーンもあるのだが、連載当時の描写とはいえ、現代のTVアニメではコンプライアンス上難しい表現だ。しかし、演出を工夫することによって、キャラクターたちの心情を強調しているほか、2人が同じベンチに座ることで、似たような思いを抱える似たもの同士であることを補強している。

 ケレン味のある派手な戦闘シーンや、漫画的に個性を強調されたキャラクターが出てこない、本作のような日常的な物語やキャラクターが魅力の作品で視聴者を引き込むのは簡単なことではない。そのためには説明セリフや会話のみに頼るのではなく、視聴者に感情移入させるように細かい演出や日常的な動きを丁寧に描くこと、そして声優にナチュラルな演技の方向性を提示するなどの高度なバランス感覚が求められる。その難しい注文にしっかりと答えながらも、原作と違う新たなる『イエスタデイをうたって』の魅力を提示している。

 「49%うしろ向き、51%前向き」というキャッチコピーが、本作を的確に表しており、似たような思いは、年代を問わず多くの視聴者も抱いているのではないだろうか。少しほろ苦いような、青臭いような、むず痒くなるような思いもあるけれど、見終わった後に前向きに明日を迎えることができる気がする。そんな視聴者の日常と悩みに寄り添って歩いていける作品だ。

※森ノ目品子の「品」は木へんに品が正式表記

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。
@monogatarukame

■放送情報
『イエスタデイをうたって』
テレビ朝日「NUMAnimation」にて、毎週土曜深夜1:30~放送
声の出演:小林親弘、宮本侑芽、花澤香菜、花江夏樹、鈴木達央、 坂本真綾、寺島拓篤、洲崎綾、名塚佳織、堀江瞬、小野友樹、喜多村英梨、前川涼子ほか
原作:冬目景(集英社 ヤングジャンプ コミックス GJ刊)
監督・シリーズ構成・脚本:藤原佳幸
副監督: 伊藤良太
脚本:田中仁
キャラクターデザイン・総作画監督:谷口淳一郎
総作画監督:吉川真帆
音響監督:土屋雅紀
音響効果:白石唯果
美術監督:宇佐美哲也
色彩設計:石黒けい
撮影監督:桒野貴文
編集:平木大輔
背景:スタジオイースター
音響制作:デルファイサウンド
アニメーション制作:動画工房
制作:DMM.futureworks
(c)冬目景/集英社・イエスタデイをうたって製作委員会
公式サイト: https://singyesterday.com/
公式Twitter: https://twitter.com/anime_yesterday

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