松重豊、『孤独のグルメ』の次は猫に? 『きょうの猫村さん』で見せる和みの演技

松重豊、『孤独のグルメ』の次は猫に? 『きょうの猫村さん』で見せる和みの演技

「実写化不可能」。

 そんな謳い文句が躍る作品も珍しくなくなった昨今、それでもまさかこの作品にまで波及するとは思っていなかった人がほとんどだろう。ほしよりこ原作の『きょうの猫村さん』は2003年よりWebサイト上で連載され、今なお続く人気コミック。現在単行本が9巻まで発売され、330万部を超えるベストセラーだ。

(c)テレビ東京

 なぜ本作が「実写化不可能」だったかといえば、主人公が猫だから。それも家政婦という設定である。アニメならまだしも、猫に家政婦が演じられるわけもなく、実写化に向かないのは暗黙の了解となっていた。それが本作は、CGやVFXなどの現実的な手法も飛び越えて「かぶりもの」で解決してしまった。しかも主人公の猫村ねこを演じるのは松重豊というではないか。

 舞台からキャリアをスタートさせ、名バイプレイヤーとして数多くの映画やドラマに出演してきた松重豊。長身でコワモテの風貌からカタブツの刑事や危険なアウトロー、気難しい父親などで存在感を放ってきた。『きょうの猫村さん』の放送局であるテレビ東京では、実写版『孤独のグルメ』に主演し、Season8まで製作される人気シリーズに育て上げたのは誰もが知るところ。決め手となったのは松重演じる井之頭五郎の「食べっぷり」だろう。仕事の合間に立ち寄った店で食事をする男をつぶさに見つめた本作は、言ってみればドラマというよりはドキュメンタリー的。店内の情景や店員の対応、メニュー選び、そして味わいの詳細な感想、すべてが五郎のモノローグで進行し、人物相手の掛け合いはごくわずか。しかしそれゆえに、人がおいしい食事と向き合うときの心の描写がリアルで、かつ松重の食べ方も小気味好く、視聴者を魅了した。大げさな感情表現もセリフもない、ほとんど食事を前にした一人芝居でありながら、はしの運び方、咀嚼するときの表情まで計算され尽くした演技は、松重豊という俳優の職人的素養が発揮された役柄だったと思う。

(c)テレビ東京

 そんな当たり役と、今回挑む猫村ねこには全く違うアプローチが必要になったのは明らかだ。『きょうの猫村さん』は、自分を拾ってくれた飼い主(ぼっちゃん)との再会を果たすため、お金を貯めるべく家政婦となった猫村ねこと、奉公先の犬神家の人々らとの交流を描いた物語。主人公が猫の家政婦という以外にも、登場人物はそれぞれ個性的で、思わずクスッとしてしまうユルい笑いが持ち味だ。ねこ役の松重は、白いふわふわのつなぎ(尻尾あり)に猫耳付きのかぶりもの、腰には家政婦らしくピンクのエプロンを巻いた姿で登場。猫ながら健気に家事をこなし、一方猫なので撫でられるとのどをゴロゴロ鳴らしたり、ストレス発散に爪とぎをしたりする。おばちゃんぽい話し方は原作通りだがそれ以外はまごうことなき猫コスプレをした松重豊。なのに意外なほど違和感がないのはなぜだろうか。おそらく井之頭五郎がリアリティを追求していたとすれば、猫村さんはひたすらにフィクションであろうとしているから。松重の演技があえて淡々としているのも、見た目のギャップを力技でねじふせるためだろうと思う。本作への出演にあたり、松重はインタビューでこう語っている。

「僕らの仕事っていうのは容れ物というふうに思っていて。悪人が入ったり、刑事が入ったりして、たまたま猫村さんという猫の家政婦さんが入ってきたと思って折り合いをつければいいのかな、と思いました」(引用:『きょうの猫村さん』猫村さん役・松重豊インタビュー!|『カーサ ブルータス』2020年5月号

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