川口春奈、『麒麟がくる』に“深み”を与える 帰蝶の多面的な人物造形

川口春奈が背負う『麒麟がくる』の深み

 一方で川口は、放送前のインタビューで帰蝶の“女の子らしさ”にも言及していた。そのことが最も良く出ているのが、光秀という同じ男性に恋をしているという共通点から、心を許している駒(門脇麦)とのシーンだ。第12回でも、久々に再会した駒が登場する場面では、満面の笑みで廊下を歩く帰蝶が映し出されるが、その弾けんばかりの笑顔は、信長や光秀と対峙するそれとは明らかに違い女の子らしさが溢れていた。

 その後、光秀が嫁をもらったことを駒に話したあと帰蝶は「十兵衛(光秀)が参ったらチクチクいじめてやろうと思うておる」といたずらっぽく話すが、信秀との緊張感あるやり取りがあったあとだけに、この軽やかさは、今後の帰蝶という女性を見るうえで、非常に良いアクセントになっていたように感じられた。


 放送終了後、川口は信秀とのシーンについて、ドラマ公式Twitterで「義父に信長へ対する真意を聞きに行くシーンを演じながら、やはり帰蝶はマムシの道三の娘だなと思いました。敬意をもってお願いしているけど、話してくれたら医者を呼びますと、交換条件を出して交渉している。頼もしくもあり、しぶとさも感じます」とコメントを出していたが、信長役の染谷同様、多面的な人物造形は、川口の帰蝶という人物の理解度の深さを印象づけた。

 本作で帰蝶がみせる軽やかさや女の子らしさは、これまでの川口がもつパブリックイメージに近い部分があるが、凛とした佇まいや芯の強さという部分でも、非常に近しいところがあると感じられる。

 数年前、自身が主演した連続ドラマの視聴率についてあるメディアが報じたとき、映画の舞台挨拶で、悔しさをにじませた川口の姿を見た。そのとき取材していた記者たちは、川口の作品に取り組む姿勢や愛情、周囲のスタッフへの心配りなど、10代にして責任感の強さや向上心ある言動に「将来、絶対に素敵な女優になる」と口をそろえて話していたのを覚えている。

 その後も映画、ドラマと着実にキャリアを重ねているが、本作は自身も「間違いなく自分をステップアップさせてくれる役だと思う」と手応えを感じているように、今後帰蝶の活躍が作品に深みを与えてくれることだろう。

■磯部正和
雑誌の編集、スポーツ紙を経て映画ライターに。基本的に洋画が好きだが、仕事の関係で、近年は邦画を中心に鑑賞。本当は音楽が一番好き。不世出のギタリスト、ランディ・ローズとの出会いがこの仕事に就いたきっかけ。

■放送情報
大河ドラマ『麒麟がくる』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送
BSプレミアムにて、毎週日曜18:00〜放送
BS4Kにて、毎週日曜9:00〜放送
主演:長谷川博己
作:池端俊策
語り:市川海老蔵
音楽:ジョン・グラム
制作統括:落合将、藤並英樹
プロデューサー:中野亮平
演出:大原拓、一色隆司、佐々木善春、深川貴志
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/kirin/
公式Twitter:@nhk_kirin
 

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