『エール』男性主人公、振り返りの土曜日は成功? 『あまちゃん』吉田照幸が描く人間の光と影

『エール』男性主人公、振り返りの土曜日は成功? 『あまちゃん』吉田照幸が描く人間の光と影

 “朝ドラ”ことNHK連続テレビ小説『エール」は、102作目にしてはじめて、週6日の放送をやめ、週5日の放送になった(土曜日は1週間の振り返り)。いったいどんな感じになるんだろうと思って観たら、いきなり窪田正孝と二階堂ふみが原始人の格好で登場、人間が音楽に出会う感動的な瞬間からはじまって、19世紀の西部開拓時代、20世紀の70年代、フラッシュモブが逸る21世紀と、時代がめくるめく移り変わり、1964年の東京オリンピックで主人公の古山裕一(窪田正孝)と妻・音(二階堂ふみ)が登場し、それから明治42年、裕一が誕生した場面に。タイムマシンに乗ってあちこち旅して回ったような感覚を味わったところで、第2話以降は、いい意味でオーソドックスな物語がはじまった。

 明治42年、福島で生まれた裕一(石田星空)は小学5年生に成長。内気で、緊張するとうまくしゃべれなくなってしまうため、クラスメイトたちからいじめられていたが、藤堂先生(森山直太朗)との出会いがきっかけで作曲の能力を発揮するようになる。地元には、「乃木大将」と呼ばれるガキ大将・村野鉄男(込江大牙)や、転校生で県会議員の息子・佐藤久志(山口太幹)がいて、彼らと触れ合うことで裕一の世界が広がっていく。鉄男はのちに作詞家(青年期以降は中村蒼)、久志は歌手になり(青年期以降は山崎育三郎)、裕一と音楽を通して生涯友情を育んでいくことになる。

 この3人のバランスがいい。裕一は呉服屋の長男でそれなりに裕福。だから蓄音機が家にあり西洋音楽を聞くことができる。でも日本が不景気になってくると家業が傾いてくる。久志はかなりのお坊ちゃん。でも恵まれていることで妬まれるという悩みももっている。鉄男は「古今和歌集」などを読み文学に興味があるが、家が貧しく学校を辞めないとならない。

 それぞれ違った家庭環境と悩みを抱える3人がこれからどうなっていくか気になる。子役たちが子供にもかかわらず、しっかりした自我をもったひとりの人間として役を演じているように感じて、見応えがあった。しかも、大人の俳優たちの表情や仕草に似せているのかもともと似ているのかわからないが、面影を重ねることが可能で、窪田ファンや中村ファン、山崎ファンにもアピールできていたように思う。石田星空はナイーブな表情が、込江大牙は昭和男児のたくましさが、山口太幹は様式的な仕草が、音の幼少期を演じる清水香帆も二階堂ふみに笑顔がなんだか似て見えた。

 音楽仲間3人の友情の黎明期を描くだけでなく、彼らを通して、人間とは一面的なものではないこともドラマは描く。一見、いい人に見えた鉄男の父・善治(山本浩司)は怠け者で子供を働かせていることがわかったり、ただの乱暴者かと思っていた鉄男が『古今和歌集』を読んでいたり。また、陽気でどんぶり勘定で気の大きそうに見える裕一の父・三郎(唐沢寿明)が、本当は気が小さく、口先だけで自分を大きく見せていることを息子には見せていない。大正時代の好景気はあっという間に終わって、不景気になり、呉服屋の経営が危機に。三郎は息子には明るく振る舞っているが、見えてないところで暗い顔をしている。やがて、そういう人間の光と影が、裕一の作曲活動に影響してくるのだろうか。

 『エール』の原作は林宏司。『ハゲタカ』(NHK総合)や『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』(フジテレビ系)、『トップナイフ』(日本テレビ系)などを手掛けたベテランだけに、構成にも隙がなく、キャラクターの立て方も巧みだ。明治、大将、昭和を実直に音楽と共に生きる主人公の物語を紡いでいくにあたり、冒頭は遊び心のあるものにして、世代を超えて楽しめるドラマを作ろうという意欲を感じる。この後、複数の脚本家による共作となっていくが、第1週でこれだけ土台を築いておけば、安心という印象がした。人気声優・津田健次郎の語りも、状況や感情を丁寧に解説し、視聴者を振り落とすことがない。

 チーフ演出家は吉田照幸。歌番組『のど自慢』からNHKのコント番組『サラリーマンNEO』などを手掛けてからドラマ演出へ。『あまちゃん』でもセンスを発揮し、映画『探偵はBARにいる3』なども監督している。レンジが広い印象があり、歌と共に歩む激動の昭和史、夫婦愛、友情など要素をこぼすことなく、しっかり伝えてくれるに違いないと期待している。劇伴と画の付け方にも工夫が感じられるので、音楽ドラマとしても楽しませてもらえるのではないだろうか。

 主演の窪田正孝と相手役の二階堂ふみは、タイトルバック映像は出ずっぱりとはいえ、第1週ではほぼ1話しか出てこなかったが、そこでは原始人から現代人まで器用に演じて、なんでもござれ的な安心感があったので、大人になった裕一、音にはなんの心配もない。

 予想以上に良かったのが森山直太朗。思慮深く、音楽にも造形深く、裕一を支える教師役が魅力的だった。知的メガネという属性はドラマになくてはならない存在である。

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