『エール』が革新的な朝ドラとなる3つの要素 『いだてん』のアナザーストーリーの一面も

『エール』が革新的な朝ドラとなる3つの要素

 新しい連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『エール』(NHK総合)が、本日3月30日より始まった。

 本作は「栄冠は君に耀く」(全国高等学校野球選手権大会の歌)、「六甲おろし」(阪神タイガースの歌)、「闘魂こめて」(巨人軍の歌)といったスポーツの歌や、「長崎の鐘」「イヨマンテの夜」など様々な歌謡曲のヒット曲を生み出した作曲家・古関裕而をヒントに造形された青年・古山裕一(窪田正孝)と妻の音(二階堂ふみ)の物語だ。

 ドラマは紀元前1億年前から始まる。いわゆる原始時代がコメディ仕立てで描かれるのだが、それ以上に驚くのは、台詞ではなくテロップで「音楽とは何か」ということが延々と語られること。そして、イメージショットのようなシーンが続いた後、1964年の東京オリンピックの場面となるのだが、試写でこの第1話を観た時は、大胆な朝ドラだなと思った。

 そして、第2話から大正時代へと舞台が遡り、裕一の幼少期(石田星空)が描かれるのだが、本作には今までの朝ドラにはない新しい試みが多数ある。

初の4K朝ドラ

 まず注目すべきは本作が4K映像で撮影された初の朝ドラだということだろう。現在放送中のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』が4Kでフル撮影された大河ドラマとして話題になっているが、本作も画面の色使いが鮮やかで、今までとは違う手触りがある。

 映像の精度が高く、細かいところまで映りすぎるからこそ、建物や着物といった細部のディテールには力が注がれており、映像作品として見るべきところが多い。今後、4K映像がテレビドラマにどう馴染んでいくかを知る上で、大きなテストケースとなるのではないかと思う。大規模なロケが多く、カット数が多いことも注目だ。

 第1週を担当したチーフ演出の吉田照幸は、NHKで『サラリーマンNEO』や『となりのシムラ』といったドラマテイストのコント・バラエティを演出し、朝ドラでは『あまちゃん』に参加している。その意味で第1話のドタバタとしたバラエティ感は、吉田ならではと言え、演出の占める割合がかなり高い朝ドラだと感じた。

話数短縮がもたらす演出の変化

 次に話数の短縮。今回の朝ドラは月~金の週5日の放送となっている(土曜日は一週間のの放送振り返り)。これは働き方改革を意識しての変化だが、少なくともこの第1週に関しては、とてもテンポの良い展開になっており、良い方向に働いていると感じた。

内気な男性主人公の珍しさ

 最後に一番興味深いのは、男性主人公の物語だということ。もちろん近年では『マッサン』もあり、男性主人公の朝ドラが初めてというわけではないのだが、おとなしい男の子の成長を、幼少期から丁寧に描く試みは、朝ドラに限らずテレビドラマでは珍しい試みではないかと思う。

 主人公の古山裕一は老舗呉服屋の息子という豊かな生まれだが、人とのコミュニケーションが苦手。だからこそ音楽の才能が開花し、会話ではなく音楽という表現で、社会とのつながりを獲得していく。この第1週は、学校でいじめられていた裕一が音楽と出会い、音楽を通して世界が広がっていく発端が丁寧に描かれているのだが、幼少期から行動的な主人公(朝ドラヒロイン)が多い朝ドラではめずらしい主人公像で、こういう引きこもりタイプの少年を主人公に朝ドラが作られる時代になったのだなと、嬉しく思った。

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