朝ドラ『エール』のモデル古関裕而とは? 故郷・福島の縁の地を訪ねて

『エール』のモデル古関裕而とは何者?

 古関が生まれ育った大町から車で10分ほど、福島市のシンボル・信夫山の麓、福島市音楽堂の隣に古関裕而記念館はある。1988年に建てられ、外観はラジオドラマ『鐘の鳴る丘』(NHKラジオ)の主題歌「とんがり帽子」をイメージしているとのこと。建物に入り、1階のサロンに見えてきたのは、実際に古関が使用していたハモンド・オルガン。ドラマ内の音楽を担当した『鐘の鳴る丘』や、「さくらんぼ大将」にもこのオルガンのサウンドが使われており、二億数千万種の音色が出せると言われている。

 2階に上がる途中の階段には、「風景の調べ」と題された直筆の色紙が飾られており、古関は画筆にも親しみ、「絵も私にとっては音楽なのである」と述べていたようだ。信夫山や安達太良山といったふるさとだけでなく、三重県鈴鹿の山々、イギリス・ロンドン市ヒルトンホテルからの街並みのスケッチも確認できた。

 2階は、小気味よい古関メロディーが流れる資料展示室。ベレー帽や8ミリ撮影機、メトロノーム、ストップウォッチ、指揮棒といった古関が愛用していた品々が並ぶ。ドラマ内でも描かれるであろう、永井隆から古関に贈られたロザリオなど、名曲「長崎の鐘」に関する資料も展示されていた。記念室には、古関が作曲をする際に使っていた書斎がそのまま再現されている。中央には3つの座卓が置かれ、忙しい時にはそれぞれの座卓に五線譜を置き、一度に数曲を作曲したという。さらに、壁一面には幼少期から晩年までの写真パネルと略年譜。目を見張ったのは、「スポーツ行進曲」「阪神タイガースの歌」など、コロムビアから出された数々のレコードと楽譜だ。

 古関の作曲は、大きく分けて「スポーツ音楽」「放送劇場映画音楽」「校歌社歌」の3つに分けられる。展示されていた中でも印象的だったのは、「オリンピック・マーチ」の総譜。古関は、1964年東京オリンピック「オリンピック・マーチ」、札幌冬季オリンピック「純白の大地」を作曲しているのだ。残念ながら、今年開催される予定だった東京オリンピックは延期が決定した。昨年放送されていた大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(NHK総合)がオリンピック開催への苦労、選手の栄光と影を描いた“最高”の作品だっただけに、『エール』も今後の開催への架け橋になればいいと切に願うばかりだ。

 ほかにも福島市には、古関所縁の地が多く存在している。生誕の地のほど近くには、「福島小夜曲」「さくらんぼ大将」「高原列車は行く」3曲のメロディーを楽しむことができる記念時計塔、吾妻山を背に鎮座する福島駅西口駅前広場モニュメントからも、定時に鐘の音と共に古関メロディーが流れている。また、福島駅前通りからレンガ通りを、古関裕而ストリートとした看板やフラッグの設置、古関夫妻らの写真をあしらったラッピングバス運行など、オンエアを前に古関を通した街の活性化が進められている。

 筆者は先行試写で第1週を観賞したのだが、窪田をはじめとした出演者のナチュラルな福島弁や福島をロケ地とした撮影風景、実際に登場する信夫小学校、川俣の地名など、随所に福島への愛が感じ取られた。半年間にわたるこの朝ドラが、全国の視聴者、そして福島へのエールとなることを祈っている。

■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
NHK総合にて、3月30日(月)より放送開始
総合:午前8:00〜8:15 (再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、薬師丸ひろ子、菊池桃子、光石研、中村蒼、山崎育三郎、森山直太朗、佐久本宝、松井玲奈、森七菜、柴咲コウ、風間杜夫、唐沢寿明ほか
制作統括:土屋勝裕
プロデューサー:小西千栄子、小林泰子、土居美希
演出:吉田照幸、松園武大ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/

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