“30分ドラマ”、なぜ今の時代にフィット? 視聴者にとって「あっという間」の快感
1月期ドラマも最終回を迎え、『テセウスの船』『恋はつづくよどこまでも』(ともにTBS系)の2大ドラマが、視聴率・話題の両面でリードした一方、ひそかに充実していたのが深夜・配信系ドラマだ。
愛に振り回された男と女のどうしようもない日々を切実なのになんだか笑えるタッチで綴った『死にたい夜にかぎって』(MBS・TBS)。20代の性と承認欲求をストレートかつキュートに描いた『来世ではちゃんとします』(テレビ東京)。問題山積みの日本の子育てを「RPG」という形式を借りて痛烈に皮肉った『伝説のお母さん』(NHK総合)。速水もこみちのドM社長ぶりに一度観たらやめられなくなる『この男は人生最大の過ちです』(朝日放送テレビ)。そして死んだはずの幼なじみが17歳のまま7年ぶりに戻ってくる『僕だけが17歳の世界で』(AbemaTV)と、いずれ劣らぬ秀作揃い。
この傾向は今期に限ったことではなく、ここ数年、深夜帯・配信をフィールドとした30分ドラマが気を吐いている。『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』『だから私は推しました』など良作を生んだNHKの「よるドラ」を筆頭に、『スカム』が光ったMBS・TBSの「ドラマイズム」。『孤独のグルメ』シリーズから『きのう何食べた?』まで人気コンテンツを多数誇るテレビ東京の「ドラマ24」など、30分ドラマ枠は今やドラマ好きにとって注目枠。TBSの「日曜劇場」やテレビ朝日の「木9」のように枠そのものに固定ファンがつくまでに成長している。
もちろんプライム帯ではない分、視聴率にそこまで縛られずにすむため、実験的な企画が通りやすく、自由にのびのびチャレンジできるという利点はあるだろう。だが、それは昔から変わらない深夜ドラマのセオリー。今、これらの枠がこれだけ人気を博しているのは、「30分」という尺に一因がある気がしてならない。なぜ30分ドラマは今の時代にフィットするのか。その理由を分析する。
(1)YouTubeの浸透
今やテレビに取って代わる一大メディアに成長したYouTube。YouTubeの世界では、短尺こそがバズの第一条件。動画のジャンルにもよるが、10分を超える尺の動画はそれだけでクリックしてもらえないことも。
面白くなければ、すぐさま次の動画にタップする時代。見切りの早い現代の視聴者層にとって、CM含めてざっくり60分のプライム帯のドラマはそれだけで心理的ハードルが高い。視聴中、ついスマホに手が伸びてドラマの内容が頭に入ってこなくなることも多々。30分は、YouTube慣れした現代人にとって、ギリギリ集中力を保っていられる時間なのかもしれない。
(2)高まるコスパ意識
インターネットの普及により、人々の消費に対する意識は様変わりした。CDを買ったことがないという人も珍しくない現代。ネットで漫画を買うにも、無料試し読みは当たり前。その上でレビューや信頼できるインフルエンサーのコメントをチェックすることも欠かさない。かつて本屋やCDショップが元気だった頃のジャケ買い文化は薄れ、何をするにもコスパ重視。できるだけ損をしたくないのが時代の空気だ。
こうしたコスパ意識は、お金だけではなく時間に対しても向けられるようになった。面白いか面白くないかわからないものに、貴重な可処分時間を費やすのはナンセンス。手軽に確実に楽しめるものがほしい層にとって、30分というサクッと感は実にお手頃。30分ドラマはコスパの面でも魅力的なのだ。