野木亜紀子×山下敦弘が描く現代人の切なさと愛しさ 絶品の深夜ドラマ『コタキ兄弟と四苦八苦』

絶品の深夜ドラマ『コタキ兄弟と四苦八苦』

 このドラマに描かれる女性たちは、常に確固たる信念を持っている。それぞれが「自分がどうしたいか」ということを真剣に考え、「こうありたい人生」を自力で作ろうとする。だが、彼女たちはそれぞれに、愛する友達や家族の手を煩わせないように、傷つけないようにと口にする。強く美しく、自分の信念を貫き通す清々しさを持つために、金銭を介した関係であるレンタルおやじを利用しなければ、気軽に誰かに寄りかかれない姿は現代人特有の切なさでもある。

 そして、第3話のモテに対して真剣に悩む青年・坂井(望月歩)の純朴さ、それに反応する兄弟のモテる・モテない議論と違って、彼女たちの向き合わずにはいられない問題は、結婚離婚、出産、死と、人生における重大な局面であり、とてもシビアな現実だ。

 何かを決意し、信念を内に秘めた女たちの表情は美しい。例えば、花嫁姿の岸井ゆきのが「私が幸せじゃないとこの子を幸せにできない」と言う時の横顔のアップ、樋口可南子の毅然とした表情のアップだけで胸が高鳴る第4話冒頭、そして一路の世界を文字通り回らせるに至った路地の樋口可南子、天真爛漫な表情が魅力の芳根京子の「だからモテないんだ~」と思っていないと言いつつ明らかに思っている目。『リンダリンダリンダ』の女子高生たちや、『もらとりあむタマ子』の前田敦子、『オーバー・フェンス』の蒼井優など、数々の女優の美しさを切り取ってきた山下だからこその、豪華な女優たちのショットももちろん忘れてはならない。

 人は、たとえ赤の他人だったとして、関わることで情が溢れ、愛着が生まれてしまう生き物なのであるということを第4話は示した。樋口演じる須弥子の死が近づくことに、なんでもないふりをしながら怯えている兄弟が食べるすっぱい梅干し。彼女の孤独で不安な夜に不器用に寄り添う2人に対して、それまで「ナニ路」呼びかけていた須弥子は、笑いながら一路、ニ路と呼びかける。でも、赤の他人でなくなってしまったから、自分が死ぬことで辛い思いをするだろう相手のことを思わずにはいられないために、別れを選ぶ。3人の会話における実子か養子か議論を含め、人と関わることは煩わしくもあるが、愛おしくもある。そんなことをこの愛すべきドラマは、教えてくれるのではないかと思っている。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
ドラマ24『コタキ兄弟と四苦八苦』
テレビ東京系にて、毎週金曜深夜0:12〜放送
※テレビ大阪のみ、翌週月曜0:12〜放送
主演:古舘寛治、滝藤賢一
脚本:野木亜紀子
監督:山下敦弘
音楽:王舟&BIOMAN(スペースシャワーネットワーク)
チーフプロデューサー:阿部真士(テレビ東京)
プロデューサー:濱谷晃一(テレビ東京)、根岸洋之(マッチポイント)、平林勉(AOI Pro.)、伊藤太一(AOI Pro.)
制作:テレビ東京、AOI Pro.
製作著作:「コタキ兄弟と四苦八苦」製作委員会
(c)「コタキ兄弟と四苦八苦」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/kotaki/
公式Twitter:@tx_kotaki

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる