松下洸平は『スカーレット』の“縁の下の力持ち” 夫として陶芸家としての「ハチさん」の生き様
芸術家として、家族として、夫婦として。いつだって人間についてまわる肩書きは一つではない。連続テレビ小説『スカーレット』(NHK総合)の喜美子(戸田恵梨香)を見ていると、陶芸家であり、母であり、妻であることの難しさを痛感させられる。その一方で、喜美子の夫・八郎(松下洸平)もまた、同じように難しい問題に直面しているのだった。
八郎は本作の中でもとりわけ重要な立ち位置にいる。夫として喜美子の持つ個性を引き立たせ、時にリードし、守り抜いてきた。男らしく、まっすぐな八郎には視聴者からの好感の声も多く、「八郎沼」と呼ばれるファンがつくほど。しかし、決して派手できらびやかな役ではない。同じ芸術家として比べるならば、天才型のジョージ富士川(西川貴教)とは対極にいるような男だろう。八郎は元来、器用なタイプではなく、作品づくりにも苦労する。だが、信楽とその土を愛し、人の心を癒やす作品をモットーとするような優しい男だ。そして何より、喜美子と揉めれば、とことん向き合い、答えを出していく忍耐強さがあった。
松下の芝居は、こうした八郎の“縁の下の力持ち”な様子を非常によく表している。出過ぎることもなく、普段は声を荒げることもない。寡黙で淡白な表情の裏には、喜美子や武志(中須翔真)への並々ならぬ愛情が溢れていた。視聴者はその熱く心地よい愛に気づいていたからこそ、八郎に得も言われぬ魅力を感じてしまうのだ。松下の持つ柔らかい表情からの表現力や、やや丸まった背中からは、優しさや温もりを感じずにはいられない。