殺人ウィルス共生者が非道の限りを尽くすーー香港“三級片”の伝説『エボラ・シンドローム』

 香港映画独特のサービス精神と過剰さがエロ・グロ・バイオレンス方面に向けられた映画群、それが香港における成人指定映画=三級片である。その三級片の中でも「伝説」となっているのが、ハーマン・ヤウ監督と稀代の怪優アンソニー・ウォンのタッグだ。先日、そんな2人の極悪映画三部作『八仙飯店之人肉饅頭(93)』『タクシーハンター(93)』『エボラ・シンドローム~悪魔の殺人ウィルス~』がめでたくDVD化された。前回は、その中でも比較的とっつきやすい『タクシーハンター』を取り上げ、俳優アンソニーの演技力の高さについて書かせて頂いた(参考:香港映画のエロ・グロ・バイオレンス“三級片”の怪優、アンソニー・ウォンが描く狂気)。『タクシーハンター』は狂気に取りつかれてしまうものの、あくまで良心的な主人公を主軸に、友情や人情を交えた映画であった。しかし、今回ご紹介する『エボラ・シンドローム』はその真逆である。アンソニーの高い演技力と、ハーマン監督の奔放かつ凶悪な発想力が本気で暴走するとどうなるか? その答えがここにある。

 ボスの女に手を出したことを咎められたアンソニー演じるチンピラのカイ。責任を追及されたカイは逆上してボスらを皆殺しにして、アフリカに逃走する。現地の中華料理店で働くカイだったが、もちろん上手くやれるワケがなかった。ここでもカイは、肉に切り込みを入れて自慰をして、使用済みのそれをそのまま調理に使うなど、その暴力的なまでの性欲と性根の腐敗度を見せつける。嫌味な連中の下で嫌々働くカイだったが、ある日、転機が訪れる。豚肉の仕入れに出かけたカイは、道端に黒人女性が倒れているのを見つける。「巨乳だ」と伸し掛かるカイ。その途端、女性がいきなり吐しゃ物をまき散らしながら痙攣を始めた。焦ったカイは反射的に女性を撲殺する。その夜、カイは高熱を出して倒れてしまう。黒人女性はエボラに感染しており、カイもまた感染してしまったのだ。しかし、ここで神の悪戯か、カイはエボラを完治させてしまう。実はカイは、エボラウィルスと共生できる特異体質だったのだ。早速、病に倒れた自分を捨てる相談をしていた中華料理店の店長一家を皆殺しにして(まただよ)、ハンバーガーにしてしまう。調理を終えたカイは笑顔で叫ぶ。「アフリカン・バーガーだ!」見事に中華料理屋を乗っ取ったカイだったが、店の新名物アフリカン・バーガーを食べた人間が次々とエボラに倒れ、周囲の街は大騒ぎになる。カイは自分がエボラと共生できる人間だと気が付いていないのだ。カイは面倒を避けるために、アフリカから香港への帰国を決断する。完全に歩く細菌兵器と化したカイは(主に下半身の)欲望に忠実に突っ走り、香港の街をパニックに落とし入れていく!

 書いていて気が遠くなる内容である。同作の前年に公開されて話題になったウィルスパニック映画『アウトブレイク(95)』が念頭にあるであろうプロットだが、そのウィルスがアンソニーに宿っている点、そのアンソニーがどうしようもない人間である点が斬新だ。ハーマン・ヤウ監督はこの恐るべきストーリーに、エロ、グロ、バイオレンス、さらにパニック映画に『八仙飯店』のセルフパロディなど、様々な要素を詰め込んでいる。そしてアンソニーである。彼は下半身の欲望に忠実であり、邪魔をするものは次々と殺してしまう最低人間を見事に演じきった。驚異的な行動力とガッツ(?)で暴れ回る姿は、まさに怪獣のようだ。出刃包丁と少女を抱えて香港の街で警官隊と正面対決をするクライマックスは本作最大の見どころであると同時に、単に中年男性が暴れているだけなのに、怪獣映画のような迫力に満ちている。『タクシー~』での気弱な青年とのギャップに驚きを通り越して爆笑する人もいるのではないか。

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