『淪落の人』で久々の映画出演 アンソニー・ウォンが語る、香港映画界の“死”と新世代への“希望”

アンソニー・ウォンが語る、香港映画界の現状

「権力との闘いが終わらない限り、香港映画界は再生できない」

ーー今回の『淪落の人』にはノーギャラで出演されたそうですね。それにはどのような理由があったのでしょう?

ウォン:何よりも彼女の情熱に心を動かされたことが大きかったです。それと、先ほども申し上げたような、香港におけるマイノリティの人たちを扱うというテーマに心を動かされました。あまり資金のない作品だったので、自分のギャラは払えないだろうなとも思いましたね。あと、フルーツ・チャンが「儲かったらまた考えよう」という話をしたこともありました。当時は、このテーマだったら1週間も上映できないんじゃないかと思ったのですが、結果的に1年以上も続くロングランとなったわけです。ただ、今でも資金はまだ回収できてはいませんが……。

ーー今回あなたが演じたチョンウィンは半身不随の中年男性です。これまであなたが演じてきたようなキャラクターとは大きく異なるキャラクターですよね。

ウォン:実は私自身、映画の中ではあまり動きたくないんですよ(笑)。20〜30年ぐらい準備してきた、あまり動かない役がやっとできたということで嬉しかったですね。

ーーちなみに、いまの香港映画界をどのように見ていますか?

ウォン:香港映画をどう定義するかにもよりますが、皆さんがよく知っているジャッキー・チェンやチョウ・ユンファが活躍するようなものを香港映画と言うのであれば、すでに香港映画界は死んだと言えると思います。なぜかと言うと、当時の人たちはみんな香港のマーケットから離れて中国に進出していて、全て中国に頼っているわけです。中国大陸からお金を持ってきて、香港で映画を撮るパターンもありますが、それは香港映画とは言えないでしょう。私が定義する香港映画は、この『淪落の人』のように、新しい世代の監督たちが作る映画です。本当の香港だったり、香港そのものや香港の未来をテーマに、彼ら/彼女たち若い世代が作る映画こそ、現代の香港映画と言えると思います。もちろん、思うようにお金が得られなかったり、政権からのプレッシャーもあったりと、いろんなハードルもあるわけですが……。業界と言えるほど、自由に映画を作れるような環境がいまの香港にはありません。どちらかと言うと、権力との闘いですね。むしろ私から言わせれば、権力との闘いが終わらない限り、香港映画界は再生できないと思います。

■公開情報
『淪落の人』
新宿武蔵野館ほかにて公開中
監督:オリヴァー・チャン
出演:アンソニー・ウォン、クリセル・コンサンジ、サム・リー、セシリア・イップ、ヒミー・ウォン
配給:武蔵野エンタテインメント
2018年/香港/原題:淪落人/英題:Still Human/112分/ビスタサイズ/5.1ch/G
NO CEILING FILM PRODUCTION LIMITED (c)2018
公式サイト:http://rinraku.musashino-k.jp
公式Twitter:@musashino_ent

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