『スカーレット』“川原家の奥さん”喜美子に向けられた期待 信作と百合子の関係は一旦保留?
かわはら工房に窯業研究所の柴田(中村育二)が訪ねてくる。けんかばかりしている2人の弟子にやめてもらう承諾を紹介元の柴田から得るためだった。そこに信作(林遣都)もやってくる。柴田は八郎(松下洸平)が主催する銀座の個展に向けて、喜美子(戸田恵梨香)にも「ハチの後ろに控えてお客さん出迎えてくれるんやろ」とたずねる。他の陶芸家を引き合いに出し、「川原八郎の奥さんやいう自覚忘れんといてな」と念を押して、柴田は帰って行った。
『スカーレット』第80回では、柴田や信作、八郎、それぞれが期待する喜美子のイメージが映し出された。信作は地元で有名になった八郎を火まつりに誘うが、なんとなく歯切れが悪い。「最近、全然飲みに行ってくれへんねんもん。昔は、よう2人であかまつ飲みに行ってたのに」とこぼす信作は、八郎との間に距離を感じている様子だ。
信作の口から出た「あかまつ」という単語に喜美子は敏感に反応。百合子(福田麻由子)と頻繁にあかまつに出入りしている理由を問いただすが、返ってきたのは意外な返事だった。喜美子と八郎は、自分たちに向けられた「結婚して、今思い描いてた夫婦になってないやろ?」という問いに言葉を失う。信作は夫の成功の陰で雑用やサポートに回る喜美子の姿に、親友として不甲斐なさを感じていたのだった。
「今の喜美子は喜美子やないねん。無理してたらな、いつかゆがむぞ」と言われ、喜美子は怒り出してしまう。ちなみに「百合子と付き合ってるんちゃうの?」という目下最大の関心は、「向こうがそんな気1ミリもないわ」ということで、またもやお預けとなった。
信作から言われたことは、八郎も以前から気にしていた。その晩、八郎は喜美子に日本陶磁器次世代展への応募を持ちかける。「喜美子は喜美子でもっと世界を広げてな、もっとやりたいことやったらええわ」。それに対する喜美子の答えは「頼まれた花瓶、どんな色にしよう思てる?」。そして八郎の考えたイメージに喜美子はすらすらと釉薬の調合を答える。「10歩も20歩も下がっててもな、勉強はできるで」と喜美子。この2年半、喜美子は八郎の背中を見ながら必死に勉強していたのだった。
世間や親友の視点を代表する柴田や信作に対して、公私ともにパートナーの八郎は同じ表現者として喜美子の実力を理解することができる。「すごいな。大したもんや」と褒めつつも、喜美子の急速な進歩に誰よりも驚いていた。その驚きが怖れに変わるのにそこまで時間はかからない。そんな男たちの期待や不安をよそに、自分の道を進む喜美子のしなやかな強さが伝わってくるエピソードだった。
■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログ/twitter
■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
NHK総合にて、2019年9月30日(月)〜2020年3月放送予定
出演:戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林遣都、財前直見、マギー、水野美紀、溝端淳平、木本武宏、羽野晶紀、三林京子、西川貴教、松下洸平、イッセー尾形 ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記、葛西勇也
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/