令和突入で変化した朝ドラ『スカーレット』、賛否割れた『全裸監督』……2019年を振り返るドラマ評論家座談会【後編】

2019年ドラマ評論家座談会【後編】

“本気モード”な『スカーレット』 朝ドラも平成から令和へ

成馬:『スカーレット』(NHK総合)、『天気の子』、『ジョーカー』は、自分の中では同じくくりの作品だと考えていて、「令和」になって気分が一気に変化したと思うんですよね。『天気の子』も『ジョーカー』も、主人公は自分のことを普通だと思っているけど、ものすごく理不尽な状況にいて、それは基本的には社会のせいだったりする。そのことに気付いて頑張るんだけど、どんどん状況がひどいことになっていきますよね。『スカーレット』も似た構造で『なつぞら』から『スカーレット』になった時に平成から令和になったんだなぁと感じました。『なつぞら』は誰も傷つかないという優しい朝ドラだけど、『スカーレット』から厳しい世相が反映されて本気モードに入ったというか。妙に殺伐としたところがありますよね。

『スカーレット』(写真提供=NHK)

ーー『なつぞら』はいかがでした?

成馬:『なつぞら』は良い面もたくさんあったのですが、不満が残る作りでした。理由はひとつで、当時、東映動画で起きた労働争議を描かなかったことで物語が歪になってしまったなと思います。そのせいで、ジブリに繋がる日本アニメーションの骨格を描けなくなってしまったと思うんですよね。労働争議で描くべきだった課題を、女性の職業問題として描いてしまったことで、会社の問題を個人の問題にすり替えてしまったように感じました。60年代後半から70年代初頭にかけての、学生運動や労働争議は、戦争を描くよりも難しくなっているのかもしれないですね。『まんぷく』も「あさま山荘事件」については描けなかったし、『ひよっこ』も、共産主義のにおいはあるけど、当時の労働運動や安保闘争を直接は描けなかった。その問題が、『なつぞら』にはそのまま出ていた印象で、もしかしたら今のドラマが抱える根源的な問題なのかなと思います。

田幸:アニメーションの深堀が少なかったんですよね。北海道の開拓者魂は描いていたけど、最終的にはホームドラマとしての側面が強かった。『なつぞら』は「記念すべき朝ドラ100作目」ということで、書かなきゃいけない素材が多すぎたのかもしれませんね。過去の朝ドラヒロインを総出演させて、キャストも主役級の人が多かった。作品というよりも「朝ドラ100作目の祭り」という意味が大きかったのかもしれません。

成馬:対して『スカーレット』は範囲が限定されているが故に、作り込みがうまくいっている。主人公の喜美子(戸田恵梨香)に対して世界が基本的に優しくなくて、そこが『なつぞら』とは大きく違うところですよね。

田幸:元々朝ドラってヒロイン至上主義のものが圧倒的に多いんです。ヒロインは愛されていて、みんなヒロインのおかげで幸せになっていくというのが王道だったけど、『なつぞら』で視聴者からなつ(広瀬すず)が嫌われてしまって……その反動なのか、きみちゃんが可哀想すぎて、みんな応援する側になっています。

成馬:朝ドラのヒロインが「嫌われない構造」を作ったという意味では、すごく画期的ですよね。ひねくれたヒロインの性格を設定したり、不幸な子をヒロインにするというのは、『純と愛』や『まれ』でもやってたけど、作り手の作為が強く出過ぎていたせいで、無理やり不幸な物語を見させられているように視聴者が感じてしまった。対して水橋文美江さんの脚本は、うまさを感じさせないうまさがあって、『スカーレット』はいい意味で作家性が目立たない。貧乏で、身内に駄目な人がいるから不幸が起きるという構造をしっかり描いているのがうまくいっていると思います。

田幸:長女の性を感じますよね。妹2人は自由に許されているのに、なぜだか長女だけが父(北村一輝)に縛られている。

成馬:姉妹3人とも、別の方向から父親に似てきていますよね。簡単に言えば、父親がクズなんだけど、そう単純には切り離せない。喜美子の中にも常治に近い部分もあるし、すごい“業”を感じさせますよね。一人の人間を悪にして切り捨てられたら楽なんだけど、身内だとそれができないので、身内に足を引っ張られていると感じることができないこと、それ自体が不幸だと思います。貧困がノスタルジーではなく“現在のこと”として描かれている。おそらく後半は喜美子の中にある常治的な要素が強く出てくる展開になると思うのですが、今の方針を貫けば画期的な朝ドラになるんじゃないかと期待してます。

(取材・文=若田悠希)

■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
NHK総合にて、2019年9月30日(月)〜2020年3月放送予定
出演:戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、松下洸平、桜庭ななみ、福田麻由子、マギーほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記
演出:中島由貴、佐藤譲
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる