令和突入で変化した朝ドラ『スカーレット』、賛否割れた『全裸監督』……2019年を振り返るドラマ評論家座談会【後編】

2019年ドラマ評論家座談会【後編】

お仕事ドラマから考える、価値観の違い

ーー対立ということでいうと、『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)などのお仕事ドラマでも、それぞれの働き方に対する考えが衝突しているように見えました。2018年は『獣になれない私たち』(日本テレビ系)もありましたが、2019年のお仕事ドラマはどうでしたか?

成馬:『わたてい』も『けもなれ』も主人公の世代が同じですよね。晶(新垣結衣)と結衣(吉高由里子)も、87年生まれ前後のゆとり第一世代で年齢が30~32歳。一方、脚本家などの作り手たちは団塊ジュニア世代で、95年ぐらいに就職氷河期を体験した心境を投影されているのかもしれません。日本の労働自体が目まぐるしく変わってきたから、好景気の時に就職できた人と就職氷河期を体験した人では仕事に対する考え方が全然違うんですよね。会社には、バブル世代も就職氷河期世代もゆとり世代もいれば、今好景気になってから入社してきた人もいる。その混乱を描くだけで、お仕事ドラマは面白くなる。

田幸:分かり合えなくて当然だと思うんですよね。『わたてい』で泉澤祐希さんが演じた来栖くんも、モンスター新人のように扱われてしまっていたけど、合理的な普通の判断のように感じる部分もあって。また、部長(ユースケ・サンタマリア)も悪者のように見えていたけど、そんなに仕事に全部を注ぐことって悪いこと? という疑問を持ってしまいました。

成馬:向井理が演じる種田さんのほうが、業が深いですよね。部長と共犯関係にあって、彼が頑張りすぎて、全部できてしまうことで根本的な問題が解決されない。もっと駄目なやつだったりパワハラ上司だったりがいるほうがまだ状況としては分かりやくて、なんとかできる余地があるけど、最大の問題が「仕事ができる人」にあったという見せ方は、ちょっとぞっとしてしまいました。

西森:種田の年齢がちょうどそういう狭間にあって、引き受けるしかない立場になってしまうっていうのも、わりと納得したりするところもありました。だからこそ、ヒロインと一回は別れることになって、種田の働き方に対する考え方が変わったら、よりを戻すっていうのは、わりと物語として妥当だなと。あと、このドラマは、働き方から自らの思い込みや呪縛が表れていて、それを、ひとりひとりが解いていく話ではなかったかと。

田幸:働くことに対する価値観の違いを提示することがすごく上手でしたよね。働き方改革って表向きは正しいんだけど、実際に生きている人間に当てはめると齟齬が出てきてしまう。そういうのがドラマでしっかりと描けるのは大事だと思います。

『わたし、定時で帰ります。』(c)2018 朱野帰子/新潮社 (c)TBS/TBSスパークル

成馬:10月期でいうと遊川和彦脚本の『同期のサクラ』も職場が舞台のドラマです。『家政婦のミタ』や『過保護のカホコ』(いずれも日本テレビ系)など、遊川さんはずっと家族がテーマでしたけど、『ハケン占い師アタル』(テレビ朝日系)から職場が舞台になりました。会社に何かあるという、作家としての嗅覚みたいなものが働いてるんでしょうね。

田幸:今一番価値観が違うのは会社ですもんね。同じ日本人であっても全く別の言語で話すような多国籍な感じになってる。

成馬:そういう意味で会社モノのドラマはまだまだ増えそうですね。ただ、今の会社モノのドラマの弱点は全員正社員になってしまっているところだと思います。『わたてい』には派遣社員のデザイナーの女性が出てきましたが、会社の中にもいろんな立場があって非正規雇用の人たちもたくさんいる。そこをちゃんと描くことで新しい面白さが生まれてくる。

田幸:あのデザイナーの子は、今までだと悪者として描かれてた女性ですよね。

成馬:一昔前なら先ほど話に出たファムファタール的な「男に色目を使う」女という扱われ方をしていたかもしれない。『わたてい』では会社の構造によってそうさせられてるところを描いて、ちゃんと救っていました。

西森:私は会社で働いたことも、派遣社員として働いたこともあるので、ものすごくリアルすぎて泣きそうになる役でしたね。これは自分の経験というか、感じたことなんですけど、派遣社員って社員よりも役に立っていないとか、能力がないっていうことをすごく実感させられるんです。まあできる仕事の範囲も狭いので構造的にも当然なんですけど、できることがあったとしても、立場上、勤務内容に書かれたこと以上のことをやらせてもらえることもない。だから、派遣が役に立てるとしたら、愛想をふりまくとか、コミュニケーションを円滑にするとか、そういう方向しか見つからない。そして、周囲もその役割を求めてくるんですね。社員の女性は多少愛想が悪くても、実績を出してくれるから仕方ない。でも派遣は、そういうことがないので、職場を明るくしてくれよと。そうなると、自分のような人間でも、なんとかコミュニケーションくらいは普通にしたいと思う。そういう思いから、あの派遣社員が、コミュニケーションでなんとかしたいと思った気持ちがものすごくわかって。こういう話って、なかなか見えないことなので、どんどん言っていかないとと思いますし、ドラマであそこまで描いてくれたことは、感謝しかないですね。

――『これは経費で落ちません!』(NHK総合)も契約社員の女性が、経費の申請は査定にひびくのではと思って、自腹をきっていたというエピソードがありましたね。

成馬:『これは経費で落ちません!』も面白かったですよね。『凪のお暇』の裏での放送だったけど、かなり健闘していました。映画の『決算!忠臣蔵』もそうなんですが、お金の流れって面白いですよね。働き方だけではなく、そういうドラマも増えていくかもしれない。

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