『スカーレット』喜美子と八郎の夫婦仲が気がかり 家族でつくる器は愛情の記憶
連続テレビ小説『スカーレット』(NHK総合)第13週は「愛いっぱいの器」。第74回では常治(北村一輝)とマツ(富田靖子)が温泉旅行から帰ってくる。
先が長くないことを知った常治は、新婚旅行で行った加賀温泉で夫婦水入らずの時間を過ごすと、駆け落ち同然で飛び出した大阪に立ち寄り、疎遠になっていた親戚のところを回ってきた。「頭にスリッパ載せて踊ったり、温泉卵あっためてヒヨコにしたる言うたり。何十年分も笑かしてくれてた」とマツは喜美子(戸田恵梨香)に話す。添い遂げることができない妻に新婚当初と変わらない思いを伝える常治の心遣いが切ない。
かわはら工房に窯業研究所の柴田所長(中村育二)が美術商の佐久間(飯田基祐)を連れてくる。八郎(松下洸平)の作品を見た佐久間は「本気が足らんのとちゃうか?」と指摘。「金賞を取らんでも、今のままでもええけどな。頭一つ抜きん出ると生きやすうなるで」という言葉は、激励のようにも八郎の陶芸家としての限界を暗にほのめかしているようにも聞こえた。
そこに喜美子(戸田恵梨香)が息せき切って駆け込んでくる。コーヒー茶碗の注文を断ったのはなぜかと八郎に問い詰めると、八郎も作業場を勝手に片づけた喜美子を責める口調に。そばにいた常治は夫婦の殺伐とした空気を感じて「しょうもない」とつぶやく。せっかく八郎と「喪主の挨拶で『僕があるのはお義父さんのおかげ』と話せ」と冗談を言い合っていたのに、頼みの綱の喜美子が夫と不仲では安心して逝くこともできない。
それにしても八郎と喜美子の夫婦仲が気がかりである。第73回でも八郎が作業場の棚にある喜美子の作品スペースに気づかない描写があった。余裕がない時ほどその人の地が出てしまうもので、気が強い喜美子と生来控えめな八郎の性格の違いが如実に現れてくる。関係がきしむと一家を包んでいた笑いも消えてしまう。修復不可能になる前に、八郎と喜美子にはどうにかしてうまくやっていく方法を見つけてほしいと思う。
秋になると常治の病状は食事にも手をつけられないほど悪化する。「おじいちゃんがな、美味しいごはんいっぱい食べれるようにええ器つくろう」と喜美子は呼びかけ、八郎のつくった大皿に家族全員で絵付けをすることに。長男の武志(又野暁仁)は眉のぶっとい常治の顔、マツは「お父ちゃんがんばれ」、百合子(福田麻由子)は徳利、八郎は富士山に鶴の絵、そして喜美子は花の絵をそれぞれ描いた。
器を囲んで笑顔になる喜美子たちを見ていると、常治はやはり川原家の主だったのだと感じる。愛情のたくさん注がれた器は、常治という人間をめぐる『スカーレット』前半の記憶でもある。
■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログ/twitter
■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
NHK総合にて、2019年9月30日(月)〜2020年3月放送予定
出演:戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林遣都、財前直見、マギー、水野美紀、溝端淳平、木本武宏、羽野晶紀、三林京子、西川貴教、松下洸平、イッセー尾形 ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記、葛西勇也
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/