年末企画:井中カエルの「2019年 年間ベストアニメTOP10」 アニメ表現そのものに多様性を感じる1年に

井中カエルの「2019年アニメTOP10」

 6位の『劇場版 Fate/stay night[Heaven's Feel] Ⅱ lost butterfly』は、PCゲームやOVA作品などのオタク文化が持つエロスやグロテスクを前面に押し出したアングラな魅力を発揮した。海外のアニメーション映画では絶対に製作することができないであろう、過激なシーンも多いが、色艶が感じられ、この描写がなければ描けない人間の業を感じさせてくれる。5位は、京都アニメーションの作品から『劇場版 響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜』。圧巻の音楽描写とリアル志向な人間関係に本シリーズの味わいがある。2019年は『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 -永遠と自動手記人形-』なども高い評価を獲得している。

 4位の『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』は、世界的に高い評価を受けるフランス・デンマークの作品。かつての日本のアニメにあった東映動画などの面影や世界の古典的名作アニメーションたちが現代に甦ったかのような映像美やキャラクターたちの躍動に感動した。大人も子供も染み入るであろう、アニメーション映画の新たな傑作。

 3位の『スター☆トウィンクルプリキュア 星のうたに思いを込めて』は、近年傑作映画を多く生み出しているプリキュアシリーズの最新作。宇宙をテーマにすることで多様性の重要性を描きながらも、CGでのダンスパートなどで子供に向けられた楽しい演出なども健在。昨年に続く年間ベスト級の傑作の登場で、このシリーズを見なければ日本のアニメ作品を語ることはできないレベルに達しているのではないだろうか。2位の『羅小黒戦記』は中国のWEBアニメーションから生まれた作品。すでに日本のアニメは東アジア全体のアニメーションに大きな影響を与えていると実感するとともに、中国アニメーションの勢いと脅威を感じさせられた。

 1位は『冴えない彼女の育てかた Fine』。シリーズファン向けの作品ながらも、筆者は公開1週間前にテレビシリーズを全話見たライトなファンだが劇場版にも強く引き込まれた。近年は実写映画も含めて病気や死、不倫などを扱った恋愛作品が多いが、今作は普通の高校生のサークル内恋愛という普通の恋愛を魅力的に描く。普通の恋愛の尊さと、恋の障害としてゲーム作りという仕事の話を入れることで、普遍的なお仕事ものやクリエイター論の作品としても見どころの多い作品に。2019年、最もリアルを感じた映画だった。

 今回、日本のアニメ映画はメディアの映画ランキングや映画賞から除外されてしまう傾向にある作品を中心に選出した。映画ファンからはあまり語られない子ども向け、オタク向けと侮られかねない作品にも、日本アニメ界の魂ともいうべき熱い情熱が込められていることが伝われば、これほど嬉しいことはない。

TOP10で取り上げた作品のレビュー/コラム

『冴えない彼女の育てかた Fine』が描く創作活動の熱意 妄想にまみれた中に見える確かな現実
映画『スター☆トゥインクルプリキュア』は大人の心も掴む ダイバーシティと環境問題を扱うその先進性
『ロング・ウェイ・ノース』『ディリリとパリの時間旅行』……EU圏アニメーションの特徴とは?

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。
@monogatarukame

■公開情報
『冴えない彼女の育てかた Fine』
公開中
声の出演:松岡禎丞、安野希世乃、大西沙織、茅野愛衣、矢作紗友里、赤﨑千夏、柿原徹也
原作・脚本:丸戸史明(ファンタジア文庫/株式会社 KADOKAWA)
キャラクター原案:深崎暮人
総監督:亀井幹太
監督:柴田彰久
キャラクターデザイン:高瀬智章
制作:CloverWorks
主題歌:「glory days」春奈るな
配給:アニプレックス
(C) 2019 丸戸史明・深崎暮人・KADOKAWA ファンタジア文庫刊/映画も冴えない製作委員会
公式サイト:https://saenai-movie.com
公式Twitter:@saenai_heroine

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