『映画 すみっコぐらし』なぜ異例の大ヒット? “ギャップ”あるストーリー展開とTwitterとの相性の良さ

『映画 すみっコぐらし』なぜ大ヒット?

 『映画 すみっコぐらし』が異例のヒットを記録している。110館ほどの決して多くない公開規模にも関わらず、200館、300館規模の作品たちを抑えて公開初週の興行収入ランキング3位にランクインしており、劇場では満席が相次いでいるほどの人気だ。また大手レビューサイトでは高得点をマークするなど作品そのものへの評価も高い。

 公開2週目に突入してもその勢いは増し、興行収入ランキングでは順位を一つ繰り上げ第2位につけており、前週比150%という異例の伸びを記録している。今回は“ギャップ”というキーワードを基に、異例の盛り上がりをみせる理由について考えていきたい。

 本作は、デザイナーのよこみぞゆりが大学の授業中に書いた落書きをモチーフに制作したキャラクターコンテンツ「すみっコぐらし」を映画化した作品だ。キャラクターのモチーフとしては、馴染みのある“ねこ”や“しろくま”のほかにも、食べられなかったとんかつの端をモチーフとした“とんかつ”、“エビフライのしっぽ”、“タピオカ”や、他にも“ざっそう”、”ほこり”などの類を見ないユニークなキャラクターがいる。その可愛らしいキャラクター造形から小学生以下の子どもをもつファミリー層を映画のメインターゲットにしている印象を受けるが、一部劇場では男性限定上映が行われるなど幅広い層に人気があることを伺える。

 監督を務めたまんきゅうは、5分から15分ほどの短編ギャグアニメを多く手掛けており、今作でも既存のキャラクターの魅力を活かしながら物語を作る手腕が光る。上映時間は65分と一般的な映画と比べると短いながらも、絵本を基にしながらショートショートのコメディを積み重ね1つの物語を作り上げている。すみっコたちは喋らないものの、イクメンタレントとしても活躍し、温厚なイメージのある井ノ原快彦や、本上まなみのナレーションがキャラクターの心情などを解説しており、その声も優しい世界観を生み出し癒しを与える一因となっている。ナレーションによって子ども達にも理解がしやすいように解説をしながらも、あえてキャラクターに喋らせないことで、大人たちには考察の余地を与える間が生まれている。

  本作が多くの観客の心をつかんだ理由を一言で説明すれば、“ギャップ“ということになるだろう。すみっコたちの和気あいあいとしたやり取りや、優しい世界観に癒される一方で、過酷な現実や大きな選択を突きつける展開が待ち受けており、その覚悟に大きな衝撃を受けることになる。“すみっこ”という言葉から生まれたキャラクターだからこそできる物語であり、鑑賞後にはメインビジュアルや、「きみも、すみっコ?」というキャッチコピーの意味にハッとさせられる観客も多いだろう。 

 『すみっコぐらし』を展開しているサンエックスの人気キャラクター、リラックマが活躍する、Netflixオリジナルアニメ『リラックマとカオルさん』も同じように話題となった。リラックマも愛らしく癒しをあたえてくれるイメージがあるが、もう一人の主人公であるカオルさんは、忙しない社会人としての生活に疲れてしまう日々を送っている。その姿がリアルであり、視聴者が自分の姿を投影しながらも、リラックマの何気ない仕草などに癒される物語となっている。『映画 すみっコぐらし』もその可愛らしいキャラクターとのギャップという意味では同じ試みをしていると言えるだろう。

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