『テッド・バンディ』監督が暴く、観客の固定概念 「外見や行動だけで信頼してはいけない」
映画『テッド・バンディ』が12月20日より全国公開される。本作は、IQ160の頭脳と美しい容姿で、30人以上の女性を惨殺したとされ、シリアルキラーの語源にもなった男テッド・バンディの衝撃の実話を描いた物語。世界を震撼させた殺人犯の裏側に迫ると共に、バンディの長年の恋人の視点を通して描くことで、観客を予測不可能な迷宮に誘い込んでいく。
ザック・エフロンが主演としてバンディ役を務め、バンディを愛してしまったヒロインをリリー・コリンズ、判事役をジョン・マルコヴィッチがそれぞれ演じる。今回、リアルサウンド映画部では、本作でメガホンを取ったジョー・バリンジャー監督にインタビュー。同じくバンディにフォーカスを当てたNetflixの『殺人鬼との対談:テッド・バンディの場合』でも監督を務め、ドキュメンタリーの分野で長年活躍してきたバリンジャー監督に、本作の特異な構成やドキュメンタリー作家としての経験、エフロンらキャストとのやり取りまで話を聞いた。
「観客にとってもリアルなものに」
ーー本作は、恋人の視点から殺人犯を描くという独特の構成になっています。他のいわゆる「実録犯罪映画」とは違う作品にすることは意識的でしたか?
ジョー・バリンジャー(以下、バリンジャー):そうだね。シリアルキラー、連続殺人鬼を題材にした映画は、今までにもたくさん作られてきたけれど、そうした作品は「殺人」をメインテーマにした映画だと思う。僕はそうではなくて、「裏切り」と「偽り」についての映画を作りたかった。だから、殺人を犯していない時のバンディの姿を描いているし、作品にも暴力的な描写はほとんどない。多くの人は、連続殺人鬼というものを、二面的なモンスターのように捉えている。だけど、僕は25年間ドキュメンタリー作家として犯罪という題材を扱ってきて、犯罪を犯す人は往々にして周囲が信頼している人だったり、「この人はそんなことをしないだろう」というような人だったりする、ということに気付かされた。
作品を通して、自分の子供や友人、テッド・バンディを知らない人たちに、バンディからの一つのレッスンを伝えられたらと思っていたよ。それは、人を外見や行動だけで信頼してはいけないということ。バンディも、周囲の友人から好かれていたし、一緒に住んでいたガールフレンドのリズもいて、リズの娘の父親代わりでもあった。そんな人たちからしてみれば、バンディがあんな邪悪なことをするはずない、と思い込んでしまうわけだよ。
ーー今までのドキュメンタリー制作の経験が、本作において活きたと思う場面はありますか?
バリンジャー:まず、記録映像の使い方は、直接的に自分のドキュメンタリー作家としての経験が活きて、映画のリアリティにつながったと思う。あとは画づくりだね。フィクションの監督には、手持ちで揺らすことがリアルだと思っている人もいるけれど、僕たちドキュメンタリー作家たちからすると、失礼にも感じる。美しい映像も撮っているのに、揺らして「リアル」だなんてもったいないよ。
あと、道具の使い方にもこだわった。時代ものの作品では、皆がベルボトムを履いていたり、鮮烈な色の服をまとっていたり……やりすぎに感じていたから、衣装と美術のスタッフには注意してもらった。撮影についても、当時をリアルに再現するために、その頃売っていたアナモルフィックのヴィンテージのレンズを使って撮影した。それによって、独自のスタイルとリアリティを追求できたと思っているよ。
ーーテッド・バンディを演じたザック・エフロンとはどのようなやり取りを?
バリンジャー:エフロンには、記録映像のものまねではなく、自分でバンディのキャラクターを見つけてくれることを願っていた。エフロンと、バンディの恋人であるリズを演じたリリー・コリンズには繰り返し、2人の間の「愛」は彼らの頭の中では本物なんだと言っていた。
ーー演技についても綿密に話し合ったんですね。
バリンジャー:そうだね。エフロンに表現してほしかったのは、人格を「使い分ける」ということ。バンディに限らず、人っていうのは、皆そうなんだよ。だからエフロンには、恋人のリズへの「愛」を感じている日と、邪悪な気持ちになっている日を、それぞれ分けて演じるよう言っていた。バンディの中ではその二つの行動は区分化されているんだ。最初の段階からエフロンとコリンズとは、バンディとリズの間の愛が、観客にとってもリアルなものに映るようにすることを決めていた。僕は、観客にリズと同じ道のりを経験してほしかった。作品を観ている中で、バンディは本当は殺していないんじゃないか? と思ってもらうことで、最後にリズが経験する「裏切り」がダイレクトに伝わるんだ。