『アイリッシュマン』アル・パチーノとロバート・デ・ニーロ レジェンド俳優たちの軌跡をたどる

『アイリッシュマン』アル・パチーノとロバート・デ・ニーロ レジェンド俳優たちの軌跡をたどる

 Netflix作品『アイリッシュマン』の全世界配信が11月27日よりスタートしている。

 本作は巨匠マーティン・スコセッシ監督による大作であることはもちろん、アル・パチーノ×ロバート・デ・ニーロという、映画ファンなら垂涎ものの共演が実現している。その徹底した役作りと他を圧倒する存在感で多くの俳優陣からも支持を得る“アクターズ・アクター”であるだけでなく、両者が出演した作品群は今日の映画シーンに甚大な影響を及ぼす存在だ。

 長きにわたりそれぞれが唯一無二の存在としてあり続けながら、これまでのキャリアにおいてクロスオーバーしてきた二人のレジェンドの軌跡を振りかえる。

逆境の中で生まれた役者アル・パチーノ

 1940年、マンハッタンに生まれブロンクスで育ったアル・パチーノが演技に興味を持ったのは、貧しい生活のなか女手ひとつで彼を育てた母が映画好きだったということが大きな理由だった。一緒に観た映画の登場人物を真似すると母はとても喜んだことで、パチーノは役者を志すようになったという。しかし、演技を学ぶ資金を得るため数々の仕事を渡り歩きながら小劇場やブロンクスのストリートで寝泊まりをする生活を送っていたさなか、最愛の母を亡くす。

 当時を「人生において最低の時期だった」と言い、「母の死に後押しされた」パチーノは、アクターズ・スタジオの門を叩く。後に『ゴッドファーザー』で共演するマーロン・ブランドやジェームズ・ディーンら、アメリカの映画史を拓いたスターたちを輩出した名門で、メソッド演技法を学ぶ。彼自身「そこで学んだことは俺の人生で大きな意味をもたらした」と振り返っている通り、キャラクターのバックグラウンドを探求しよりリアリスティックな役作りへと繋げていくこの演技法は、今日“型にはまらない”同じ演技を二度とやらない”として知られる役者アル・パチーノが持つ最大の特徴である。

 徹底したリサーチに自身の感性を照らし合わせ表現することで確立される超現実的キャラクター描写は、彼にとって役者人生の転機ともなる『ゴッドファーザー』のマイク・コルレオーネ役をもたらすこととなった。

 ジャック・ニコルソンやロバート・レッドフォードという当時既に名の知れていた役者陣のキャスティング案を振り切り、無名のパチーノを抜擢したフランシス・フォード・コッポラの意図は、マイク・コルレオーネという繊細な男がみせる変化の過程を、当時興隆していたアメリカン・ニューシネマの特徴であるリアリティーをもって表現することであった。パチーノ自身「誰も俺に出演してもらいたくなかったんだ。コッポラ以外はね」、「“どうやって俺はこの役を演じるんだよ”って思ってたんだ」と語っているとおり、撮影現場でも戸惑いの色をみせていた彼の姿に映画会社の関係者による降板を求める声が高まっていた。

 そして『ゴッドファーザー』屈指の名場面と語り継がれる、マイケルがレストランに忍び込み敵を暗殺し悪の道に進むきっかけのシーンで、役者アル・パチーノの本領は発揮される。これまでの萎縮していた様子をはね除け、誰しもの想像を超える型破りな表現により見事一人の男が悪者へと転身する瞬間をみせたパチーノに、それ以降懐疑の目を向ける者は誰もいなかった。

 マイケル役の演技は高い評価を受け、アカデミー候補となるだけでなく『スケアクロウ』『セルピコ』といったアメリカン・ニューシネマの傑作に出演するきっかけとなった。

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