弁護士ドラマの前提揺るがす!? 『グッド・ファイト』が描く「トランプ時代」との闘い
これまで数々の傑作を生み出してきたアメリカのテレビシリーズの伝統の一つ、「ロー・ファーム(弁護士事務所)もの」ドラマにおいて、現在最も人気を集めている『グッド・ファイト』。この作品について語られる際に、必ず前置きとして触れられるのは「CBSの大人気テレビシリーズ『グッド・ワイフ』のスピンオフ作品」ということだ。2009年から2016年にかけて7シーズンにわたって製作された『グッド・ワイフ』に関しては、今年1月期のクールに日本のTBSが同タイトルのリメイク作品を放送していたので、オリジナルのCBS版を見たことがない人もその存在を知っている人は多いはず。ちなみに、日本版の3年前には韓国でもリメイクされていて、そのことからも、いかに普遍的な面白さとユニバーサルな現代的価値観の詰まった優れたテレビシリーズであったかがわかる。一方、本作『グッド・ファイト』は確かに「『グッド・ワイフ』のスピンオフ作品」であることは間違いないのだが、その製作環境と背景について少し説明をしておいた方がいいだろう。「ワイフ」から「ファイト」へ。そもそも同じ名詞でも言葉としての概念のグループが違うのには理由があるのだ。
『グッド・ファイト』はアメリカの4大ネットワークの一つ、というか最大手のネットワーク、CBSが2014年に設立したストリーミングサービスCBS ALL ACCESS初のテレビシリーズとして2017年に配信をスタートさせた作品。より正確に言うと、シーズン1のエピソード1だけCBSで放送して、それ以降はCBS ALL ACCESSで配信することで視聴者の新サービスへの誘導をはかった、まさに社運をかけた戦略作品だった。現在の北米のテレビシリーズは、幅広い視聴者層に向けた4大ネットワーク局のドラマ、規制から自由な環境でターゲットを絞った先鋭的な表現が可能なケーブル局のドラマ、ケーブル局よりも自由な製作環境の中で作られるストリーミングサービスのドラマ、と大きく三つに分けられるが、『グッド・ワイフ』から『グッド・ファイト』への移行は、そのまま一番目のプラットフォームから三番目のプラットフォームへの移行を意味している。
結果、潤沢な製作費が注ぎ込まれた華のある画作り(ロケ、セット美術、ファッションなど)、テレビシリーズの基本に忠実な巧みなストーリーテリング、どんな作品でも欠かさないウィットとユーモア、というネットワーク局ドラマの長所だけを引き継ぎ、『グッド・ファイト』はとにかく攻めに攻めた作品になっている。「スピンオフ作品」という点が気になる人もいるだろうが、基本的に『グッド・ワイフ』未見でもまったく問題なし(もちろん『グッド・ワイフ』を見てる人ならお馴染みのキャラクターの再登場シーンに大興奮できたりするが)。『グッド・ワイフ』の主要キャラクターの一人だったシカゴのベテラン弁護士ダイアン(ちなみに日本版では賀来千香子が演じていた役)、当初は競合相手だった弁護士ルッカ、新人弁護士のマイア、いずれも女性の3人の弁護士を中心にして物語は進んでいく。ちなみに、ルッカは『グッド・ワイフ』シーズン7から登場したキャラクター、マイアは『グッド・ファイト』で初登場するキャラクターだ(マイア演じるローズ・レスリーは『ゲーム・オブ・スローンズ』の野人イグリット役でもお馴染み。共演したジョン・スノウ役キット・ハリントンと今では私生活でもパートナー)。