多数のキャラクターの人生を描き分ける 『なつぞら』脚本家・大森寿美男の作家性

『なつぞら』大森寿美男の作家性

 ところで、こうした脇キャラの魅力から改めて思い出されるのが、大森寿美男がかつて手掛けた朝ドラ『てるてる家族』である。

 同作は、冬子(石原さとみ)がメインでありながら、4姉妹それぞれのストーリーが丁寧に描かれていた。

 フィギュアスケートの才能を開花させる長女や、フィギュアスケートを経て芸能界でスターになっていく次女。そんな華やかな姉たちに比べて、四女はおっちょこちょいで成績も振るわず、何にでもすぐ飛びつく軽やかさと明るさを持ち、「なるようになる」をモットーにしている。おっちょこちょいで明るくてみんなに愛される、一つの朝ドラの定番ヒロインだ。

 しかし、当時、この作品で非常に人気を集めたのは、スターの姉たちでも、ヒロイン・冬子でもなく、むしろ上野樹里が演じる三女・秋子だった。

 真面目で成績優秀で大人びていて、いつもちょっと引いた場所から全体を見ている秋子。華やかな二人の姉と、明るく呑気な妹の間で、自分の与えられた役割を粛々とこなすタイプだ。そして、自分の主張はせず、悩みも一人で解決し、人知れず家族のバランスをとっている印象もあった。

 しかも、面白いのは、そんな彼女の唯一の趣味がマンボを踊ることだったこと。そして、他の人とは違う世界観を持つ秋子は、やがて近所のインスタントラーメンの発明に情熱を注ぐ博士(日清食品創業者の安藤百福がモデルとされる)らとの出会いを経て、自分なりの生き方を見つけていく。

 ポンポンと好き勝手なことを言うように見える夕見子と、物静かで大人びた秋子。与える印象は大きく異なるものの、両者に共通しているのは俯瞰でモノを見ている「真ん中っ子」的なバランサーであることだろう。そして、そういうバランサーを描くときにこそ、大森寿美男の筆が冴え渡る気がしてならない。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
連続テレビ小説『なつぞら』
4月1日(月)〜全156回
作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、松嶋菜々子、藤木直人、小林隆、音尾琢真、戸次重幸、北乃きい、吉沢亮、大原櫻子、清原翔、犬飼貴丈、田村健太郎、坂口涼太郎、増田光桜、中川望、古川凛、小林楓、吉田奏祐、小林綾子、草刈正雄 ほか
制作統括:磯智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中正、渡辺哲也ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/natsuzora/

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