高畑勲×宮崎駿『太陽の王子 ホルスの大冒険』の“失敗”が、日本のアニメーションに遺したもの

『ホルスの大冒険』が日本アニメに遺したもの

 日本アニメーションの黎明期にスポットを当て、当時のアニメーターがモデルと思われる人々が多数登場するNHK連続テレビ小説『なつぞら』。劇中では、主人公・なつ(広瀬すず)と坂場(中川大志)ら東洋動画による長編漫画映画『神を掴んだ少年クリフ』が興行的失敗に終わる模様が描かれた。そして、現実にも同じように不入りに終わってしまったのが、高畑勲、宮崎駿による『太陽の王子 ホルスの大冒険』だ。本稿ではその功績を紐解きたい。(編集部)

異彩を放った唯一無二の作品

 東映の元社長だった大川博が「東洋のディズニー」を目指すべく設立したアニメ制作会社、東映動画(現・東映アニメーション)。『白蛇伝』(1958年)、『安寿と厨子王丸』(1961年)、『わんぱく王子の大蛇退治』(1963年)など、次々に高い品質の名作が発表され、その作品群は、後の日本のアニメーションが隆盛する土台となっていった。そんな東映動画にあって、とくに異彩を放った唯一無二の作品が、『太陽の王子 ホルスの大冒険』(1968年)である。

 いまのTVアニメを中心とする「リミテッドアニメーション」は、動きを効果的に簡略化するような演出を選択することで、製作の時間と労力を抑えながら、娯楽としての質を保つ手法である。そのような作品に慣れていると、まさにディズニー作品を想起させる、細部までごまかしのない、当時の東映動画の劇場作品のクオリティに腰を抜かすかもしれない。そして、本作『太陽の王子 ホルスの大冒険』は、そのなかでもさらに膨大な労力と時間が投入されている作品だ。

 当時の金額で1億3000万円もの巨費を投じ、手を抜かない有機農法のような絵の描き方で、さらにスタジオジブリ作品のほとんどを上回る作画枚数による、本作の制作規模は、歴代の日本のアニメーション作品のなかでもトップクラスといえるだろう。

 だが、そのあまりにも高いクオリティとは裏腹に、本作は興行的に大惨敗を喫した作品でもある。なぜこのような失敗をしてしまったのだろうか。そして本作『太陽の王子 ホルスの大冒険』は、現在までの日本のアニメーションに、何を遺したのだろうか。ここでは本作の真価を、それらのことを振り返りながら考えていきたい。

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