高畑勲×宮崎駿『太陽の王子 ホルスの大冒険』の“失敗”が、日本のアニメーションに遺したもの
興行的失敗の原因
ここにおいて、本作の興行的失敗の原因も明らかになってくる。子ども向け作品として作られ宣伝しているのにも関わらず、内容があまりに知的過ぎるのだ。子どものために意義ある作品を作りたいと考える高畑監督の情熱は、本作に触れる多くの子どもにとっては、難解過ぎるものになっていることは否めない。
高畑監督は、このようにも書いている。「今ふりかえって考えてみますと、ホルスの人物像にそしてヒルダの扱いに、多くの混乱がみられることに気づかざるを得ません。象徴的な英雄神話的なものに、きわめて現実的な諸問題や、環境をからませていったために、物語の力強さを大きく損なってしまいました。力不足を痛感しています」( 高畑勲著『映画を作りながら考えたこと』)
監督自身が言うように、本作には若さゆえの空回りや、情熱の暴走による判断ミスがいくつもあり、それが破滅へと向かう原因になったことは確かだろう。しかし、本作は本当にそれだけの「失敗作」だったのだろうか。
高畑勲を突き動かしていた信念
当時、高畑監督を突き動かしていたのは、「意義のある作品を作る」という信念であり、「良いものを作れば結果はついてくるはず」という願いであった。それは後に、高畑監督自身や宮崎駿自身が評価する『アルプスの少女ハイジ』というかたちで結実することになる。そしてその成功は日本を代表するヒットメイカーとなった、スタジオジブリへと引き継がれていく。さらにその作品群は、日本のアニメーションに携わる人々のみならず、ディズニーやピクサーを統括していたジョン・ラセターなど、世界のクリエイターたちに大きな影響を与えることになる。つまり『太陽の王子 ホルスの大冒険』に込められた信念は間違ってはいなかったのだ。そして本作がなければ、その後の成功は生まれなかったことも確かだろう。
高畑監督、宮崎駿らを含め、本作に青春を捧げ、力を振り絞ったスタッフたちの情熱こそが、日本の、そして世界のアニメーションの未来を切り拓いたといえる。この事実は、多くのアニメーション作家や、ものづくりに関わる人々の希望になり得るはずだ。本作自体は「失敗作」と呼ばれるようなものになってしまったかもしれない。しかし、それは同時に偉大な挑戦であり、意味のある立派な失敗でもあったのである。
※記事初出時、一部に記述の誤りがありました。訂正してお詫びいたします。(2019年8月22日)
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■放送情報
『太陽の王子 ホルスの大冒険 4Kレストア版』
東映チャンネルにて9月7日(土)16:00〜17:30/21日(土)16:30〜18:00
声の出演:大方斐紗子、市原悦子、平幹二朗、三島雅夫、永田靖、横森久、横内正、赤沢亜沙子、堀絢子
監督:高畑勲
脚本:深沢一夫
(c)東映
『最新技術で甦る!東映動画名作アニメーション』
東映チャンネルにて9月2日(月)7:30〜8:00/7日(土)15:30〜16:00/28日(土)17:00〜17:30
出演:大方斐紗子、小田部羊一
(c)東映
公式サイト:https://www.toeich.jp/special/anime_theater