『なつぞら』頑張れイッキュウさん! 中川大志が“器用”に示す“不器用さ”

『なつぞら』頑張れイッキュウさん!

 坂場の言動ひとつをとってもそうだったろう。彼の持つ情熱と純粋さが向かっているのが、“アニメーター・なつ”へなのか、“一人の女性・なつ”へなのか、なつ自身と私たちとを絶えず困惑させなければならなかったのである。そうして、彼が「プロポーズ」という大きな行動を取ることで、演じる中川も「好意」というあからさまな表現を取ることを許されたのだ。ここまでは、その器用に示す不器用さで、私たちの感情を宙吊りにしてきた中川だが、これからは大胆さも必要とされるだろう。婚約は破綻してしまったが、さて、どうなるのか……。なつと正式なパートナーになることがあれば、感情のぶつかり合いが起こることも必至である。ここからが期待だ。

 そんな中川がいかに器用な俳優であるかは、彼のキャリアを振り返れば一目瞭然だ。まだ彼が10代の頃に、快活な17歳とうだつの上がらない27歳とを演じ分けた『ReLIFE リライフ』(2017)や、大人気マンガ・アニメの実写版『坂道のアポロン』(2018)に与えた再現度の高さと実在感。『花のち晴れ〜花男 Next Season〜』(2018/TBS系)で圧倒的な“王子様感”を披露したかと思えば、今年は、『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』(フジテレビ系)で若手エリート弁護士でありながら素っ頓狂な姿も見せ、続く『賭ケグルイ season2』(毎日放送・TBS系)ではクールを装いながら下剋上を目論む策士を演じている。このように、異なるジャンル、異なるタイプのキャラクターにトライしてきたことが、『なつぞら』での“不器用さ”を表現する器用さにも繋がっているのだろう。

 坂場となつは、一体どうなるのか。ヒロインを演じる広瀬とともに中川は、これからゴールに向かってどのように駆けていくのか、あるいはこのまま離脱するのか。坂場はなつとともに、アニメーション界の新たな時代をつくる男となれるのか、そうではないのか。期待し、困惑しながら見守りたい。

■折田侑駿
映画ライター。1990年生まれ。オムニバス長編映画『スクラップスクラッパー』などに役者として出演。最も好きな監督は、増村保造。Twitter

■放送情報
連続テレビ小説『なつぞら』
4月1日(月)〜全156回
作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、岡田将生、比嘉愛未、近藤芳正、中川大志、染谷将太、川島明、渡辺麻友、伊原六花、犬飼貴丈、田村健太郎、戸田恵子、井浦新、山口智子ほか
制作統括:磯智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中正、渡辺哲也ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/natsuzora/

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