『いだてん』杉咲花、中村勘九郎らが次世代に灯した光 「種まく人」が描かれた第一部最終回
また、四三は「いだてん」としての使命も果たす。
震災後の人々は賑わいを取り戻しつつあったが、夜になるとそこかしこで涙する声が聞こえる。清さん(峯田和伸)はこう言った。「気が済むまで泣いて、こっちは聞こえねえふりして、また明日何食わぬ顔でおはようって言うんだ」人々は明日を生きるために前を向かなければならない。だが、前を向くだけでは悲しみや苦しみを乗り越えることはできないのだ。
そんな人々のために四三が提案したのが「復興運動会」の開催だった。塞ぎ込む人々のために希望を与えたい。四三が提案した思いをより強いものに変えたのは、震災後も変わらず元気な子どもたちの姿だった。四三と共に走る子どもたちの姿を見て、治五郎は「子どもたちの笑顔が、ここでは唯一の救いだ」「あの子たちにこそ、オリンピックを見せてやりたい」と言った。子どもたちは未来だ。そんな未来に対して、四三の表情は明るい。震災後の人々の生活に光が差し込み始めた。
子どもたちのかけっこで幕を開けた復興運動会。そこには、ストックホルムオリンピックで監督を務めた大森兵蔵(竹野内豊)の妻・安仁子(シャーロット・ケイト・フォックス)や四三と共に日本人初のオリンピック選手として活躍した三島、そしてシマがスカウトした人見絹枝(菅原小春)の姿が。シマの手紙に心揺さぶられ、陸上の世界へと足を踏み入れた絹枝。大々的な復興運動会を開催しても、シマは戻ってこなかった。だがスポーツを愛していたシマの心が、絹枝という新しい芽を連れてきた。絹枝はリレーに参加し、堂々とした走りで富江(黒島結菜)と共にゴールする。彼女たちの走りを見ていた増野(柄本佑)は、彼女たちに拍手を送るシマの姿を見た。
第一部最終回となった第24回「種まく人」は、第一部に登場した人々が「種まく人」であったことを実感できる。治五郎が日本とオリンピックをつなげ、三島はシマに、シマは絹枝にスポーツの楽しさをつなげた。復興運動会のシーンでは、今は亡き兵蔵がアメリカから持ち帰ったバレーボールが女学生に人気となり、可児(古舘寛治)もドッジボールの普及に力を注いでいる。
そして四三は走り続ける。治五郎は走り続ける四三を「いだてん」と呼ぶが、スヤは四三の走る姿を「バカの走りよるて、皆笑っとるだけたい」と言った。だが、「いだてん」とも「バカ」とも評される、走ることにあまりにもまっすぐな四三を、中村が晴れ晴れとした表情で演じ続けてきたからこそ、四三のその姿勢に説得力が生まれていた。
次週から第二部がスタートする。第一部の彼らが「種をまいた」からこその第二部だ。彼らのまいた種は、どのような花を咲かすのだろうか。
■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。
※「舘」の字は、正しくは、外字の「舘(※舎官)」
■放送情報
『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』
[NHK総合]毎週日曜20:00~20:45
[NHK BSプレミアム]毎週日曜18:00~18:45
[NHK BS4K]毎週日曜9:00~9:45
作:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
出演:中村勘九郎、阿部サダヲ/綾瀬はるか、生田斗真、杉咲花/ 森山未來、神木隆之介、橋本愛/杉本哲太、竹野内豊、 大竹しのぶ、役所広司
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/idaten/r/