菊地成孔の『月極オトコトモダチ』評:パロディぎりぎりの引用は罠だ。とんでもないオチが音楽恋愛映画に(笑)

菊地成孔の『月極オトコトモダチ』評

不勉強へのお詫び

 本作は、30代の女性監督、穐山茉由の長編デビュー作であり、第31回東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門正式出品、<映画×音楽の祭典「MOOSIC LAB 2018」>でグランプリ他、4冠を受賞。という、ある種もう特に新鮮味もない作品プロフィールを持つ、異色の傑作である。

 流し読みで一番気づかれないのは<映画×音楽の祭典「MOOSIC LAB」>の部分であろう。歴史はそんなに短くもなく、2012年に始まっている。筆者はその存在自体を全く知らなかったし、従って、ここの出身者がプロのミュージシャン、乃至、インディーもしくは完全なアマチュアだがバズったりしている、といった話も耳にしたことはなかった(ところが調べてみると、筆者の楽曲をカヴァーしていたアイドルチームBiSが受賞していたり、大森靖子氏が受賞していたり、吉岡里帆氏が受賞していたり、当連載で批評したことがある『溺れるナイフ』の山戸監督が、ここのグランプリ受賞だったりした)。絵に描いたような不勉強であり、フェアネスとしてそのことを先ずお断りさせて頂きたい。本稿は委嘱原稿、即ち、「試しに見て欲しい」旨、REAL SOUND側から頼まれて書いている。

 デビュー前のアマチュア作家のコンペであるMOOSIC LABの縛りは、音楽をテーマにした映画であること以外にはなく、音楽家のドキュメントから、本作のような、脚本にがっつり音楽制作(アマチュアミュージシャンライフ)が絡んでいる作品まで、バラエティの広さは想像に難くない。

 本作は、前述の通り、オリジナル脚本の中に、アマチュアミュージシャンが登場する(劇伴や主題歌作曲や編曲、歌唱は気鋭のプロミュージシャンが携わっている。筆者へのオファーは、その辺りへのきめ細かい言及も欲しい。といったことではないかと思う)。

ミッション1&2

 グランプリ(ほか4部門)の受賞は伊達ではなく、本作は、良い意味で普通にとても面白い。再び良い意味で、MOOSIC LAB色というか、「あーねー、あのコンペの出品作ね」といったカラーリングも淡いか、あるいは全くなく、CSなんかで時折ある、特別ドラマのようなものの1本だと言われれば、納得してしまうであろう。

 そして、ここで筆者が言う、「面白さ」の80%は、<驚愕のオチ>とも言える、脚本上のどんでん返し(オチに直結している)にある。これには本当に驚き、鑑賞しながら、声に出して「うおー、そんなんなんるの?!! びっくりしたあ!! やっベーなこれ!! うはははははははは!!」と、笑いながら叫んでしまった。

 なので、本作を批評するに際し、筆者に与えられたミッションは、こういうものであろう。前述の通り、作品全体の劇伴を担当した入江陽氏(デビューアルバムが筆者の友人の大谷能生によるもので、知己はないが、作品は熟知している)、主題歌を歌っているBOMI氏(不勉強が続くが、名前しか聞いたことがなかった)、プロモーションキットでも、押し出しのトップに来ている、主題歌編曲の、今を時めく長谷川白紙氏(氏は筆者の音楽理論科の生徒として、ほんの一瞬であるがクラスに在籍した)等、気鋭のミュージシャンの仕事ぶりについて詳細に書く。

 もう一つは、作劇上の驚くべき(それは、音楽制作という営為に組み込まれている必須の事項を扱ったもので、奇策や奇手ではない)どんでん返しを紹介するに当たり、ストーリーを全て紹介しなければいけないことになる。

 以下、ミッションをニコイチにし、音楽の話をしながら、さほど複雑でもないストーリーを全て紹介するので、絶対に本作を観るのだ。と事前に決めている読者の皆様においては以下はお読みにならない事を強くお勧めする(「絶対に読むな」とは言わない。ストーリーを全て聞いてもなお観たくなるようには書くつもりなので)。

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