柳楽優弥が示す、“表現者”としての真価 『CITY』『泣くな赤鬼』『ザ・ファブル』を軸に考察
年明けすぐに、久しぶりの主演映画『夜明け』が公開。比較的ちいさな作品ではあるが、ひとりの若者の苦悩を細やかに演じ、映画に力強い息吹を吹き込んだ。そして先週より公開された『泣くな赤鬼』では、『夜明け』に続き等身大の青年・“ゴルゴ”を好演。高校野球に打ち込む少年が監督(堤真一)との想いのすれ違いから挫折し、やがて大人になってからの関係が描かれる本作で、高校球児時代のゴルゴに扮する堀家一希と丁寧にバトンを繋ぎ合った。結婚し、人の親になったゴルゴを柳楽は演じているのだが、かつての恩師との思いがけない再会によって、いま一度、自分と向き合おうとする姿が印象的である。監督はかつて“赤鬼”と呼ばれ、どんな時にも一切の涙を見せなかった人物だが、余命宣告されたゴルゴとの交流によって、彼もまた自分と向き合うこととなるのだ。自身の不遇を嘆きながらも懸命にもがく姿を見せる柳楽の力に、涙を堪えきれなかったのは筆者や“赤鬼”だけではないだろう。
ところが、1週違いで公開された『ザ・ファブル』では、岡田准一をはじめ、木村文乃、福士蒼汰、向井理、佐藤二朗といった面々がクセモノを演じる中でも際立つ怪演を披露している。柳楽が演じるのは、出所したばかりのヤクザ・小島。義理も人情も通用しない、デンジャラスな男である。ノンストップで暴走を繰り広げる小島を、柳楽は終始ハイテンションで演じ上げる。画面に大映しにされる彼の顔、そして只者ではないことを印象づける発語と挙動、それらすべてに恐ろしい凄みが感じられるのだ。
これら一連の作品を続けて観てこそ、柳楽優弥という存在の真価が見えてくる。彼の仕事を追っていると、俳優という枠に収まりきらない、“表現者”という言葉こそが相応しいのだと思えるのだ。
■折田侑駿
映画ライター。1990年生まれ。オムニバス長編映画『スクラップスクラッパー』などに役者として出演。最も好きな監督は、増村保造。Twitter
■公開情報
『ザ・ファブル』
全国公開中
出演:岡田准一、木村文乃、山本美月、福士蒼汰、柳楽優弥、向井理、木村了、井之脇海、藤森慎吾(オリエンタルラジオ)、宮川大輔、佐藤二朗、光石研、安田顕、佐藤浩市
原作:南勝久『ザ・ファブル』(講談社『ヤングマガジン』連載)
監督:江口カン
脚本:渡辺雄介
配給:松竹
(c)2019「ザ・ファブル」製作委員会
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