大手シネコンの映画鑑賞料金、相次ぐ値上げ “お財布に優しい”映画鑑賞を伝授

“お財布に優しい”映画鑑賞とは?

増税後はどうなるのだろう

 今年の10月には消費税10%への増税が控えている。今回のシネコンの値上げは、増税対策なのではないかという意見もあるが、どの社の公式リリースにも増税に関しては触れられていない。増税のタイミングでさらなる値上げもあり得るのかもしれない。

 映画館の料金と消費税については、これまでは必ずしも連動してこなかった。今回の値上げが26年ぶりであることからわかるように、消費税が5%、8%と上がったにもかかわらず基本料金の値上げは行われていない(割引料金の改定などは行われている)。

 しかし、消費税が初めて日本に導入された1989年には、映画館は増税を理由に値上げをしている。当時の映画館の一般料金は1500円だったのだが、これが3%の消費税が始まった4月1日から1600円になっている。

 1500円の3%は45円なので、100円の値上げはおかしい。だが、映画館側はこの値上げを増税対策とは「公式」には言っていない。

『映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか(ダイヤモンド社)』(斎藤守彦・著)

 故・斉藤守彦氏は著書『映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか』(ダイヤモンド社』で消費税導入時の映画館運営会社への取材の体験をこう書き残している。

「主要な興行会社に電話取材を行ってみた。すると、ほとんどの会社が『まだ分かりません』『未定です』『検討中です』との返事だったが、1社だけ『うちは料金を上げます。100円上げて1600円にします』との返事があった。

 当時まだ映画業界紙記者歴2年弱の僕は、そのことを正直に記事にした。ご丁寧に『消費税に対応して値上げ』などという見出しまで用いて、興行会社の名前と対応してくれた部長のコメント、名前も確か記載したと思う。すると翌日、当の本人から電話があり、お小言を頂戴してしまった。

 『君なあ、確かに値上げをすると言ったが、消費税に対応して、という風に書かれると困るんだよ』『はあ、でも確かにそうおっしゃってましたが・・・』『今業界では、こういう書かれ方をすると困るってことぐらい、君だって分かってるだろう!!』。いや、あまり分かってませんけど。『あたかも便乗値上げをうちの会社がするように思われるのは心外だ
!』」(P107)

 などというやり取りがあったそうだが、消費税施行の4月1日になったら、各社一斉に1600円に値上げしたそうだ。1500円の3%は45円なので、それを1600円にしたらどう見ても便乗値上げだと思うが、要するに「公式に増税対策で値上げです」と言うと、じゃあなんでさらに55円上乗せするのかと突っ込まれたら答えに窮するのだろう。

 さて、今回大手シネコンの一部が6月1日という、妙に半端な時期に値上げをすることになったわけだが、これが増税と同じタイミングだったら、おそらく斉藤氏と同じ疑問を抱く人間が続出することだろう。現在、消費税8%を1800円の内税で処理している日本の映画館だが、これを10%で計算し直すと、1834円となる。増税対策で1900円にしますと発表した場合、残りの66円はなんですか? と誰もが思うだろう。別に100円単位で値段を設定しなければならない決まりなどないので、1840円とか1850円という値段だって設定可能なのだが。

 まあ、今回の値上げはあくまで「設備負担や人件費などの高騰で利益が圧迫」されていることが理由であって、「公式」には増税は関係ない。ただ、1900円の8%内税は140円なので、10%で計算し直すと1935円であることは覚えておいた方がいいだろう。便乗値上げはあまり褒められたものではないと思う。筆者は、1840円のような「中途半端」な値段を設定してくる映画館が出てこないかなと期待している。割引だけでなく、基本料金にももう少し弾力性があってよいのではないだろうか。

 シネコン化や、邦画の成長によって90年代にどん底だった映画館の入場者数は、2000年、2010年代を通じて回復傾向にあったが、それも頭打ちになりつつある。令和という新時代は、日本は本格的な人口減少時代に突入するだろうから、ここからいかに映画人口を減らさないでいられるかが問われることになる。値上げの結果がどうなるかまだわからないのだが、映画館は一層の営業努力が求められるだろう。筆者も消費者としてもより努力していると思える映画館を選んでいきたいと思う。

(※記事掲載時、カレンダー表記に誤りがございました。訂正してお詫び申し上げます。)

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。 

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