立川シネマシティ・遠山武志の“娯楽の設計”第37回
映画料金はもっと自由になれるか? TOHOシネマズ料金改定を機に考える
日本は“世界標準”ではない?
ここからが、本題です。日本の映画館は、ロードショー館ならどこでもほぼ一般1,800円になっています。これは海外ではあまり例をみないことで、アメリカでもヨーロッパでもアジアでも、場所や劇場によって料金が異なるのが普通です。
映画は本やCDのように「再販売価格維持制度」の対象ではありません。より優れた鑑賞体験を求める方が来る場所の性格が強まってきた以上、統一料金にする文化保護の意義も薄れているでしょう。
実際には、すでに先述の通りに、各興業会社が独自の割引を作ったり、ポイント制を行ったり、特別劇場を作って料金を変えています。限定的には作品によって値上げしたり、値下げしたりという例も散見されます。
なので、すでにそうなっているではないか、とも言えますが、しかしまだ窮屈です。都市部とそうでない地域の劇場では、建築コストも運営コストも大きく違うはずです。20年前から変わらない劇場と、今年にオープンした劇場とでも、大きく違うはずです。
例えば、僕が新しい映画館を作れるとしましょう。そしたら2種類の劇場を作ってみたい。全体的に作りはしょぼく、予告編やCMがやけに長いが、新作映画でも800円とかで観られる「シネマ・チープ立川」。そして割引一切なし、超高級サウンドシステムと最新鋭プロジェクターを備え、椅子はすべてル・コルビジェの傑作“グランドコンフォート”であり、床は大理石の4000円均一、大人の隠れ家的映画館「シネマ・ヴァルハラ立川」。
これはいけそうだと思っても、しかし現時点では許されません。もしかしたらギリ「ヴァルハラ」はいけるかも知れませんが、「チープ」は絶対ダメでしょう。ここに踏み込めるようになったら、映画館業界はまた新たな発展を遂げる余地ができるかも知れないと思うのですが、どうでしょうね。
だからこそ、TOHOシネマズには、都市部の劇場だけ値上げ、地方はむしろ値下げ、ともっと踏み込んでいただきたかったというのは高望みでしょうか。でも、それこそが世界標準です。
一回『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』で東京と大阪の8劇場だけを2,000円にするというのをやってましたが、結果はどうだったのでしょうか? これ同時に、その代わり地方は1,600円にしていたらどんな結果になっていたでしょう?
「値決めは経営」は稲盛和夫さんの名言ですが、映画料金それ自体をエンターテインメントにできないか、僕はずっと考えています。
You ain't heard nothin' yet !(お楽しみはこれからだ)
(文=遠山武志)
■立川シネマシティ
映画館らしくない遊び心のある空間を目指し、最高のクリエイターが集結し完成させた映画館。音響・音質にこだわっており、「極上音響上映」「極上爆音上映」は多くの映画ファンの支持を得ている。
『シネマ・ワン』
住所:東京都立川市曙町2ー8ー5
JR立川駅より徒歩5分、多摩モノレール立川北駅より徒歩3分
『シネマ・ツー』
住所:東京都立川市曙町2ー42ー26
JR立川駅より徒歩6分、多摩モノレール立川北駅より徒歩2分
公式サイト:http://cinemacity.co.jp/