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立川シネマシティ・遠山武志の“娯楽の設計”第34回

映画館の“良い席”ってどこだ? 座席選びから見える鑑賞者の人生観

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 東京は立川にある独立系シネコン、【極上爆音上映】等で知られる“シネマシティ”の企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案するこのコラム、第34回は“映画館の良い席ってどこだ?”ということについて。

「良い席、まだ空いてますか?」

 お客様からそう聞かれるのは、映画館スタッフあるあるのひとつ。聞かれたスタッフは「良い席なんて人それぞれだからなあ」と思いつつ、混んでいるときなら、たいていこんな答えが返ってくるんじゃないでしょうか。

「今からですと、前の方“しか”空いてないですね」
「ちょっと見上げる席に“なってしまい“ます」

 ちょっと待った! 僕は誰一人観客がいなかったとしても、最前列か2列目に座るんだよ。見上げる席って、そもそも映画は見上げるもの、それが作品への敬意の表し方。『ニュー・シネマ・パラダイス』で主人公のトト少年がスクリーンを見下ろしている画なんか、様にならないでしょ! 憧憬ってものが失われているじゃない。

 これはシネコン登場以前に映画に親しんだおっさんの意見(笑)。ただ、僕には映画とは神様仏様のように見上げるべき存在なのです。尊きものを見下ろすという発想は、人類にはないはずです。混雑で後列で観ざるを得ないこともありますが、できる限り前へ。どんな嫌いな映画でも、どんな駄作でも、例え自宅で観ていたとしても見下ろすことはないですし、家で観るとしても、これまでの人生で早送りや途中を飛ばしたこともありません。それは映画で生活の糧を得ている人間として厳守すべき矜恃。敬意を失ったら、必ず仕事に緩みが出るからです。タブレット使用時に見下ろしたり、早送りやスキップするのはただひとつ、エッチな動画だけです。

音響的ベストと映像的ベストの違い

 僕の特殊事情はおいておき、一般的な「映画館の良い席」の模範回答は「中央より数列後ろの列のセンター席」ということになっています。どのくらい後ろかは、真横に壁のサラウンドスピーカーがある列が目安になります。

 理由は、前面、側面、後方についているスピーカーからの距離と音量バランス的にこのあたりが一番良いからです。スピーカーの調整を行うときに、このあたりにマイクを置いて測定することになっているのも大きい。結果、このあたりが数値的には最も正しい場所になります。むろん、劇場のサイズや形状にもよりますので、一概には言えないことは前提です。

 ただこのことを知らない人のほうが圧倒的に多いと思いますが、たいていの場合、このあたりの席から優先的に売れていくのが面白いです。座席表で見たとき、多くの人にとって感覚的に観やすい感じがするのでしょう。

 音に限っては上記の通りですが、では肝心の映像についてはどうでしょう? 音の左右バランスということと同様に、映像も真正面から観るに越したことはありません。斜めから見てはゆがみが生じます。また音響的にはベストは真ん中よりも後ろの列ということになりますが、視覚の没入感を考えると、もっと前の方が良いでしょう。没入感の規定は難しいですが、シンプルに考えれば視界いっぱいにスクリーンが入り切っていることではないでしょうか。スクリーン以外が目に入らなければ、他のことに気を取られることはなくなります。

 そう考えると100席未満の小さな劇場なら最前列でもまだ近寄り足りない、ということもあるでしょう。逆にIMAXに代表される巨大スクリーンの劇場で前方列だと、視界からはみ出してテニスの試合のように首を振らなければならないでしょう。

 音響的ベスト席と、映像的ベスト席の乖離。どちらを取るべきか? しかし問題はまだあります。それはここまで書いてきたのは、他のお客様がまったくいないことを想定している、いわば真空管の中で鉄球と同じ速度で落ちる羽のような話だからです。そこそこ埋まっている劇場での座席選択の場合、音響や映像の質を差し置いて、通路側、あるいは、いっそのこと空いているサイドブロックを選ぶお客様はかなり多いです。売れ方をみても、センターブロックの通路側はど真ん中に次ぐ人気ポジションです。少なくとも片側には誰も座らないことが保証されているとか、途中トイレに行きたくなっても行きやすいとかが主な理由でしょう。このメリットは小さくないので、ハイブリッドで音響ベスト列の通路側とか、映像ベスト列の通路側というのは強力な選択肢になり得ます。

 もっと単純な話、隣に誰も座っていない席、というのは選択要素として大きいはずです。こればかりは後から売れるかも知れず、自分だけでなんとかなるわけではありませんが、最初に席を取ることでプレッシャーを与えることくらいはできます(笑)。両隣に人がいることに比べれば、多少映像にゆがみが出たり、音響のバランスが悪いことなど大した問題ではないという方もいらっしゃるでしょう。それは脳が補正してくれますしね。それほど混んでもないのに、サイドブロックや壁側を選択する方の理由は、画や音の質よりも、誰にも邪魔されたくないということが大きいでしょう。周囲に人がいない席こそが最も没入感を得られる座席だ、というのもその通りだと思います。

      

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