『腐女子、うっかりゲイに告る。』が描く“マイノリティの生きづらさ” ラベルを外すことで見えるもの

今期NHKよるドラが描く“生きづらさ”

説明的なセリフを用いず、心の揺れ動きを描写するスタッフ陣

 こうした質の高い作品を支えるのが、スタッフ陣の手腕だ。脚本の三浦直之は、前述のファーレンハイトのセリフをはじめ、多くのセリフをそのまま引用するなど、原作の小説『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』にかなり忠実にシナリオを構成している。

 その中で、例えば第1話の終盤で、紗枝が「避雷針と雷」や「噴水と水」などに独自の関係性を見出し、「BLって世界を簡単にしないための方法だと思うの」と唱えるくだりはドラマオリジナル。劇作家としてこれまで多くの演劇作品で「見立て」を用いてきた三浦らしいアレンジだ。

 演出も冴えている。他人には理解してもらえないという失望を抱えている純は、そんな世界ならば自分から拒否すると意思表示するように、校内ではほぼイヤフォンをつけている。流れるのは、大好きなQueenの楽曲。Queenだけが「自分を理解してくれる」存在なのだ。

 そんな自分のとっておきを、初めて心が近づいた紗枝と分かち合う。バスの中、イヤフォンを片耳ずつシェアして、Queenを一緒に聴く姿は、希望の光があった。純は紗枝なら自分を理解してくれるかもしれないと、何気ない雑談を装ってゲイを話題に出す。しかし、純をゲイだと知らない紗枝は、「ゲイなんて現実にそうそういないし」と発言し、無自覚に純を傷つける。結局、ひとりになった純はまた何もなかったようにイヤフォンで両耳を塞ぐ。純の心の揺れ動きを、説明的なセリフは一切用いず、イヤフォンだけで表現した秀逸なアイデアだ。

 第2話でもファーレンハイトが「ラブとライクでは『好き』の全てを表現することは出来ない」と断じ、あるのは「勃つ『好き』と勃たない『好き』だ」と告げた。このくだりがあるだけで、どんなに密着しても反応しないのに、それでも紗枝の告白を受け入れキスをする純のちぐはぐな心や決断の残酷さがより鮮やかに伝わってきた。

 30分と短い尺ながら、無駄なシーンやセリフはなく、決して言葉数が多いわけではないのに情報量が濃い。これぞ職人の仕事と称えたいクオリティをキープしている。

 今夜の第3話では、自分がゲイであることを隠したまま紗枝と付き合いはじめた純の葛藤が描かれる。インパクトの大きいタイトルに食わず嫌いしている人がいたら、まずはその先入観を捨てて、じっくり観てほしい。きっと純や紗枝の背中越しに、誰にも理解してもらえない孤独と絶望で膝を抱えてうずくまっている、自分自身の姿が浮かび上がってくるだろう。

■横川良明
ライター。1983年生まれ。映像・演劇を問わずエンターテイメントを中心に広く取材・執筆。初の男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』が1/30より発売。Twitter:@fudge_2002

■放送情報
よるドラ『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』
NHK総合にて毎週(土)夜11時30分から11時59分(29分・連続8回予定)
原作:浅原ナオト「彼女が好きなものはホモであって僕ではない」
脚本:三浦直之
出演:金子大地、藤野涼子、小越勇輝、安藤玉恵、谷原章介 ほか 
演出:盆子原誠、大嶋慧介、上田明子、野田雄介
プロデューサー:尾崎裕和
制作統括:篠原圭、清水拓哉
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/drama/yoru/fujoshi/

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