働き方にグラデーションを 『わたし、定時で帰ります。』が描く、子育てと仕事を両立させる難しさ

働き方にグラデーションを 『わたし、定時で帰ります。』が描く、子育てと仕事を両立させる難しさ

 仕事に対してはキャリアを誇る賤ヶ岳も、母親としては新人だ。子どもを持つことでキャリアがリセットされるというよりは、まだ誰もクリアしたことのないステージに立たされた感覚に近いのではないか。先にゴールした人も見当たらず、攻略法も見いだせない。共に進むパートナーも、同じように父親1年目。すべての問題に正面からぶつかるし、うろたえてしまう。

 仕事の場合は、職場に同じような経験をした人がいて、新人が今どんなことに悩んでいるのかも察することができる。だが、育児をしながら職場復帰する経験をした人は、まだまだ少ない。職場のメンバーも受け入れ初心者なのだ。

 経験のないことだからこそ、何に困っているのかも見えず、ただただ「無理をしないで」としか言えない。だが、その言葉に当の本人はそれを「使えないと思われているのでは」と後ろめたさを感じながら働くことになるというすれ違いは、とても悲しい。

 ならば、子育て経験者ならわかってくれるかというと、親世代とは働き方そのものが違う。思い返せば、昭和から平成へと移り変わった1989年の流行語は「24時間戦えますか」だった。企業戦士として夫が家庭も顧みずに働き、妻が家庭と育児に奮闘するのが「当たり前」とされていた時代から、30年。「24時間戦えますか」から「わたし、定時で帰ります」へ。こんなにも「当たり前」が変わろうとしている。

 そんな変化を受け入れるのに必要なのは、何よりも理解と想像力だ。子育てしながら働くというのが、どんな生活になるのか。それを知らなければ、どうサポートしていいのかも見えてこない。だからこそ、本作のようなドラマで子育てで追い込まれる部分や陥りがちな考えなどを描くことで、子育て経験のない人たちにも想像するキッカケになるのではないだろうか。この作品を見た多くの人がWeb上に感想を述べている。その異なる視点を知り、さらに自分がどう思うのかも掘り下げていく。

 最前線か戦力外か、その2択しかなかった働き方に、もっとグラデーションを。平成から令和へと移り変わる今、多様な価値観と共に十人十色の頑張り方を認め合う社会へ。そのために私たちは何を考えるべきかというヒントをくれるドラマになりそうだ。

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(文=佐藤結衣)

■放送情報
TBS系火曜ドラマ『わたし、定時で帰ります。』
TBS系にて毎週(火)22:00~放送
原作:朱野帰子『わたし、定時で帰ります。』シリーズ(新潮社刊)
出演:吉高由里子、向井理、中丸雄一、柄本時生、泉澤祐希、シシド・カフカ、内田有紀、ユースケ・サンタマリアほか
脚本:奥寺佐渡子、清水友佳子
演出:金子文紀、竹村謙太郎
プロデューサー:新井順子、八尾香澄
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/watatei/

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