『キャプテン・マーベル』アクション×濃密な物語を楽しめるのは4DXだけ 心情の変化も伝わる演出
だれが予測しただろうか。コミックブックの端役にすぎなかった女性キャラクターが、よもや後天的なスーパーパワーに目覚め、気づけば現在ではハリウッドの実写映画として全世界に飛翔しているではないか。『アイアンマン』(2008)の衝撃デビューにはじまるマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)。最新作となる『キャプテン・マーベル』(2019)は、アカデミー賞女優ブリー・ラーソンを主演に迎えた初の女性スーパーヒーロー単独作だ。
サスペンスフルな物語と、めまぐるしいアクション・シーケンスがスクリーン狭しと展開する本作において、4DXは最適の上映システムだ。こぶしからは熱光線を投射し、宇宙空間では亜光速で移動する。まさにマーベル史上最強レベルと銘打つにふさわしい圧倒的能力を備えた、奇跡のスーパーウーマン、“キャプテン・マーベル”。彼女の持つ、操縦能力、飛行能力、拳から発せられるフォトンブラストいったパワーは、歴代のMCUヒーローを凌駕するほど。『キャプテン・マーベル』4DXでは、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』同様、登場キャラクターにあわせた専任の“4DXプロデューサー”が配置され、各々のキャラクターの能力を反映し、細部にわたって独自のオリジナル効果を設定していたそう。それもあり、『キャプテン・マーベル』4DXは、マーベルヒーロー4DX映画で歴代もっとも繊細で感性を刺激する演出に仕上がっていた。
時代背景は1990年代半ば。レンタルビデオが隆盛を極め、街角には電話ボックス、任天堂のゲームボーイが発売して間もないころだ。眠りから目覚めたヴァース(ブリー・ラーソン)は、身に覚えのない記憶に悩まされる日々を送る。寝室のベッドから起き上がると、窓越しに外を一望する。近未来的な街並みが広がるのは、クリー帝国の統治する、惑星ハラだ。高層ビルからヴァースが街を見下ろすこのシーンでは、座席が前のめりに傾く。そのまま眼下へと身を落としそうになる感覚と同時に、サイバーパンクな景色に驚嘆するシーンとなる。クリーの小型艇が画面を横切ると、心地よいそよ風が頬をなでる。リアリティに溢れた3D画面と相まって、スクリーンへの没入感はすさまじいとなる。はやくも冒頭から“4DX”のすごみを身に染みて感じることだろう。
ヴァースは、消えた記憶に苦悩する日々を送っている。わたしは一体何者なのか――このアイデンティティを探求する最中に、期せずして訪れた地球人の住む惑星。縁もゆかりもないと思われた地球だったが、なにかが彼女を引きつける。これまでのMCUヒーローが最初からその能力を持っているのに対し、キャプテン・マーベルは、物語を通してそのスーパーパワーに目覚めることになるのだ。かつて人間だったヴァースがヒーローとして誕生する本作は、ただ強いだけではない、彼女の人間らしい部分が伝わってくる。
実際に本作を4DXで鑑賞して気づいたのは、ヴァースの心情の変化をよりリアリティをもって伝える演出である。冒頭のヴァースは自らの感情や力を抑制しており、だからこそ最後の戦いでキャプテン・マーベルとしてそのパワーを覚醒させる。その変化を、アトラクション的感覚で楽しめるアクションシーンとはまた違う感触で提供する。例えば、ヴァースの感情を表すエモーショナルなシーンで、ロッキングチェアのごとくゆるやかな揺れ、風でその時の情緒を表現。ホールの「Celebrity Skin」、ニルヴァーナの「Come as You Are」といった90年代ナンバーが流れると、曲調にあわせて、絶妙に角度をつけながら動くモーションチェアの演出で観客をさらに楽しませてくれる。