『まんぷく』安藤サクラの母としての愛が胸を打つ 物語で初めて描かれた“失恋”
“恋は影法師。いくら追っても逃げていく。こちらが逃げれば追ってきて、こちらが追えば逃げていく”
女性と交際したことがない忠彦(要潤)の弟子・名木(上川周作)は、まず偉人たちの恋にまつわる名言を学ぶことから始めた。その1つが冒頭のウィリアム・シェイクスピアの言葉である。忠彦は、名木が頭でっかちになってしまうのではないかと、その様子を少し心配しているようだ。ただ、名木には名木なりの考えがあるはずだから、そこはどうか長い目で見守ってあげてほしいところである。
さて、今週の『まんぷく』(NHK総合)では1つの恋物語が佳境を迎えたわけであるが、それは他でもなく幸(小川紗良)の話である。万博が開催されたこともあり、日本を訪れていたアメリカ人の青年・レオナルド(ハリー杉山)。そんな彼と出会った幸は、何度も彼と一緒に時間を過ごすうちに自然と好意を抱いていく。喫茶店で語らいあうとき、あるいは家に帰ってきてからも彼のことを思ってドキドキする彼女の姿は、まさしく青春を謳歌している様子。ところが後にレオナルドには婚約者がいたことが分かり、幸は悲しみにくれてしまうのだった。
源(西村元貴)には気持ちをぶつけられる父親がいるが、自分にはいないと幸は思っているのではないか。福子はそんなことを思いながら、幸のことを心配していたのだった。もちろん、幸の周りには彼女のことを気にかけてくれる人はちゃんといる。ただ、幸はすべてを1人で抱え込もうとしていた。失恋をすると、ひどく孤独であるかのように錯覚することがある。まるで自分だけがどこかに取り残されたような気持ちになるのだ。
幸に好きなだけ泣かせようとするシーンで、福子は「私はあなたのお母さんなんやから」と言っていた。そんなことわざわざ言わなくても当たり前の事実ではないかと思うかもしれない。だが、そんなことすらも忘れかけてしまうくらいに、人は自分が1人なのではないかと思いこむことがある。好きなだけ泣いて、愚痴をこぼして、甘えることが許され、なおかつ最も近くにいる存在。それが自分であることを思い出させた福子の役割は非常に重要である。三度の逮捕や失業があっても、萬平(長谷川博己)が前を向き続けることができたのも、福子の包み込みような愛があったからだろう。