『ビール・ストリートの恋人たち』“理不尽への抵抗”がメロドラマを通した新鮮なタッチで描かれる

『ビール・ストリート~』が描く“理不尽への抵抗”

 2016年公開の監督作『ムーンライト』で、第89回アカデミー賞作品賞の栄誉に輝いたバリー・ジェンキンス。彼の手がけるあらたなフィルムが『ビール・ストリートの恋人たち』である。本年度(第91回)のアカデミー賞でも、3部門ノミネート、1部門受賞と高い評価を受けた。原作小説を手がけたジェイムズ・ボールドウィンは、公民権運動の時代に重要な役割を果たした黒人作家だ。彼の同名作は、黒人カップルのラブストーリーであると同時に、人種差別に対する抵抗の書物でもある。2017年には、ジェイムズ・ボールドウィンを通してアメリカにおける差別の歴史と実態を描いたドキュメンタリー映画『私はあなたのニグロではない』が発表され、日本でも劇場公開された。海外文学読者のみならず、多くの映画ファンが、この才能豊かな黒人小説家の名前を記憶しているはずだ。

 『ビール・ストリートの恋人たち』はラブストーリーである。1970年代のアメリカ、ニューヨ―ク。22歳の青年ファニーと19歳のティッシュは幼なじみであり、いまでは仲睦まじい恋人どうしであった。愛し合い、幸福にすごすふたりであったが、ファニーはとあるきっかけで白人警官の不興を買い、身に覚えのない罪で留置所へ入れられてしまう。彼の潔白を証明し、留置所から出すため、ファニーとティッシュの家族は懸命の努力を重ねるが、無罪放免を勝ち取るためには幾多のハードルが立ちはだかっていた。やがてティッシュは、留置所にいるファニーの子を宿していることに気がつく。

 バリー・ジェンキンスは1970年代のアメリカを描きつつ、現代につながる物語としてこのフィルムを撮っている。現代アメリカに根強く残る、人種差別の問題が本作の重要なテーマだ。こうして評を書いている間にも、オクラホマ州タルサで、無抵抗の黒人に発砲し、射殺した白人警官に対して、銃を撃った判断は妥当であり、事件を調査した司法省は「警官の罪を問わない」と判断したとのニュースが入ってきた(The New York Timesより)。いまはもう2019年だというのに、両手を挙げて無抵抗の意思を示していた市民を撃つ行為が、自己防衛だと判断されてしまう理不尽な現状は変わっていない。白人警官による黒人への暴力を告発するブラック・ライヴズ・マター運動は、2016年に大きな社会現象となったが、アメリカ社会は変わることができずにいる。いまから30年前、1989年にスパイク・リー監督が警官の暴力を描いたフィルム『ドゥ・ザ・ライト・シング』から、あまり前進できていないのだ。

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