『アリータ:バトル・エンジェル』なぜ世界的なヒットに? 原作を解釈し直した“愛の物語”
世界最大のヒットメイカーとして知られるジェームズ・キャメロン。彼は、世界興行収入歴代1位を記録した『アバター』の制作を開始する前、『アバター』と同時に、木城ゆきと原作のSF格闘漫画『銃夢』の映画化企画のどちらを手がけるかで迷っていたという。それほどの間あたため続けていた『銃夢』の企画が、キャメロンの信任が厚いロバート・ロドリゲス監督によって、『アリータ:バトル・エンジェル』として、ついに公開された。
興行的には北米でこそ遅れをとったものの、世界47ヶ国で首位ヒットを獲得し、中国で爆発的な出足を見せるなど、本作『アリータ:バトル・エンジェル』は世界的な盛り上がりで追い上げを続けている。それも頷けるほど、本作には広く観客に受け入れられる普遍的な要素が多く存在する。ここでは、その魅力が何なのかを解説していきたい。
まず目につくのは、サイボーグの主人公“アリータ”であろう。アイアンシティ(クズ鉄町)のクズ鉄のなかに廃棄されていた、脳以外が機械化された少女が主人公アリータだ。タイトルになっている“戦う天使”の名の通り、華奢に見える少女の体型ながら、身体を有効に動かし“機甲術(パンツァークンスト)”を駆使して、襲いかかる大勢の敵を華麗になぎ倒していく。本作は、この痛快な主人公の姿をCGによって構築している。
『アバター』でもCGアニメーションを担当したWETAデジタルは、「モーション・キャプチャー」よりもはるかに精細な、「パフォーマンス・キャプチャー」という技術を本作でも継続し、さらに精度を高めている。無数のマーカーが貼り付けられた、演技をする役者のデータを、様々な角度からのカメラによってとらえ、役者の動きや姿かたちを正確に再現するシステムによって、まるで生身のようなCGキャラクターを創造することに成功しているのだ。これは、ある意味ではCGアニメーションと特殊メイクの中間的な技術だといえよう。アクションにおいても、スタントを行う人間のモーションをとり入れることによって動きの説得力を獲得し、逆に生身の人間には不可能な動きをさせることもできる。
最も特徴的なのは、日本の漫画やアニメのように、目が非常に大きく表現している部分だ。実写映像に馴染ませたリアルなCGアニメーションで、ここまでデフォルメした姿を描くというのは、不気味な表現と受けとられかねない、挑戦的な試みである。
もし、自分の身体のパーツを、機械の部品を交換するように好き勝手に変えることが可能だとすれば、多くの人がパーツをいろいろ組み換えてみて楽しむのではないだろうか。実際、自分の姿を理想に近づけるため、写真アプリで目を大きく加工するなど、いわゆる“盛る”ことを行っている人は少なくない。ときにはそれがエスカレートして、それこそサイボーグに近くなってしまうこともある。
それを延々続けていくと、そもそも“美”の基準とは何なのかというところに突き当たるだろう。ある人がある人を見て「美しい」と思うとき、果たしてその価値観はどの程度広く共有され、信頼できるものなのだろうか。時代が変われば基準も変化する。大きな目や長い脚が得られる時代になれば、その傾向はさらにエスカレートし、新たな基準が生まれるはずだ。それは、本作を観るうちに、アリータの大きな目にすぐに慣れたという声が多いという事実からも分かる。