『ジュリアン』全員が救われうる選択肢はあったのか? DV問題の告発にとどまらない重層的な語り

『ジュリアン』全員が救われうる選択肢はあったのか? DV問題の告発にとどまらない重層的な語り

 『ジュリアン』は、一見、DV問題の実態を告発するストレートな社会派映画です。

 11歳の少年ジュリアンの両親は、父の暴力が理由で離婚し、ジュリアンと姉は母と暮らしています。しかし、父は共同親権を盾にジュリアンと2週に1度面会交流を行うことを主張し、裁判所もそれを許可します。母は新しい住所を父に隠し必死に逃げますが、ジュリアンを道具に使って元妻に執着する父の行動はだんだん暴走していき、ついに『シャイニング』ばりの恐怖に至る――。そもそも、父アントワーヌは初登場時のルックスから「いかにもDVを振るってそうな粗暴で暗い男」として描かれています。

 しかし、『ジュリアン』はそんな社会問題に対する一面的な解釈を訴える映画ではありません。『ジュリアン』は「答え」ではなく「問い」を突き付けてくる、もっと開かれた映画です。

 この映画は93分とコンパクトですが、その中で決して短くない尺を割かれているのが、ジュリアンの姉で、もうすぐ18歳の誕生日を迎えるジョゼフィーヌのストーリーです。彼女のために割かれた時間の長さに違和感を覚える人もいるかもしれません。少なくとも筋書き的には、姉のストーリーは最後まで弟と交わらず、投げっぱなしで終わるからです。でも、このジョゼフィーヌのストーリーこそ、この映画の鍵です。

 18歳になれば成人として親権に服さなくてもよくなるため、ジョゼフィーヌは父との交流も強制されません。ジョゼフィーヌには遠くの町に暮らす恋人がいますが、彼女が学校をさぼってまで恋人と会うことを母は快く思っていません。明示はされませんが、作中、彼女は恋人との子を妊娠したようです。やがて迎えた18歳の誕生日、恋人を招き、会場を借りて大規模な誕生パーティーが開かれます。パーティー終了後、最後まで残った2人は、翌日片付けのために来るはずの母親あてに書き置きと鍵を置いて、会場を後にします。

 そこで彼女のストーリーは終わります。その夜に自宅で起こる悲劇にも、彼女は立ち会いません。ジュリアンともDVとも無関係なこのストーリーは一体何を意味するのでしょうか。

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