アメコミ映画好きには嬉しいサプライズも? 『スパイダーマン:スパイダーバース』高評価の理由

『スパイダーバース』高評価の理由は?

深イイ話なのです

 こう書くとファン相手のお祭り映画的に聞こえるかもしれませんが、こうしたギミックを使いながら、とても感動的な成長物語に仕上がっているのです。こうしたスパイダーマンたちが、マイルスくんを成長させていくのがストーリーのメインになってきます。

 どのスパイダーマンもヒーローですが、どこか“しくじり先生”みたいな人生を歩んでいます。だからこそマイルスくんの悩みや葛藤がわかるのです。「人は一人では生きていけない」けれど「自分のことを決められるのは自分だけ」という大きなテーマを、“別の世界にも自分と同じような人がいて、その人たちが支えてくれる”という形で見事に描いています。こうした深さが高評価の理由でしょうか。

歴代スパイダーマン映画とのリンク

 さて、この作品には歴代スパイダーマン映画ファンにも喜ばれるシーンもいっぱいあります。まずスパイダーマンの今までの活躍を振り返るシーンで、トビー・マグワイアの『スパイダーマン』で描かれたMJとの逆さ吊りのキス、『スパイダーマン2』の名シーン、暴走電車を止めるシーンや、トム・ホランド版『スパイダーマン:ホームカミング』のフェリー救出のシーンを彷彿させる描写があります。

 また、アンドリュー・ガーフィールド版『アメイジング・スパイダーマン2』で、エマ・ストーン演じるピーターの恋人グウェンは死んでしまいますが、ここでは“特殊な蜘蛛に噛まれたのはピーターではなくグウェンの方で、彼女がスパイダーマン的に活躍している”という設定のスパイダー・グウェンが登場します。グウェン好きにとっては、彼女がどこかの世界で生きていると思うと嬉しくなりますね。

 そして、このアニメにはマイルスのおじのアーロンという男が出てきますが、このキャラはトム・ホランドの『スパイダーマン:ホームカミング』でドナルド・グローヴァーが演じていました。彼は『ホームカミング』で甥っ子のことを話題にしますが、このマイルスくんの存在を示唆していたのでしょう。

 アメコミ・ヒーロー映画好きには嬉しいサプライズも。スパイダーマン・ノワールの声を演じるのは、アメコミ・ヒーロー大好きで、映画『ゴーストライダー』シリーズのニコラス・ケイジ! さらに、劇中かかるスパイダーマンのクリスマス・ソング(本国では『スパイダーマン:スパイダーバース』はクリスマス映画だったので)を歌うのは、『ワンダーウーマン』のスティーブ・トレバーことクリス・パイン、またもう一人登場する“あるスパイダーマン”の声は、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』などでポー・ダメロンを演じ、『X-MEN:アポカリプス』ではアポカリプスを演じたオスカー・アイザックです。そして、昨年12月、天に召されたスタン・リーさんが登場です。スタン・リーさんがどこかのユニバースでは元気にしている、ファンにとっては本当に素敵なシーンになっています。

■杉山すぴ豊(すぎやま すぴ ゆたか)
アメキャラ系ライターの肩書でアメコミ映画に関するコラム等を『スクリーン』誌、『DVD&動画配信でーた』誌、劇場パンフレット等で担当。サンディエゴ・コミコンにも毎夏参加。現地から日本のニュース・サイトへのレポートも手掛ける。東京コミコンにてスタン・リーが登壇したスパイダーマンのステージのMCもつとめた。エマ・ストーンに「あなた日本のスパイダーマンね」と言われたことが自慢。現在発売中の「アメコミ・フロント・ライン」の執筆にも参加。Twitter

■公開情報
『スパイダーマン:スパイダーバース』
3月8日(金)全国ロードショー
製作:アヴィ・アラド、エイミー・パスカル、フィル・ロード&クリストファー・ミラー、クリスティーナ・スタインバーグ
監督:ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン
脚本:フィル・ロード、ロドニー・ロスマン
日本語吹き替えキャスト:小野賢章(マイルス・モラレス/スパイダーマン)、宮野真守(ピーター・パーカー/スパイダーマン)、悠木碧(グウェン・ステイシー/スパイダーグウェン)、大塚明夫(スパイダーマン・ノワール)、吉野裕行(スパイダー・ハム)、高橋李依(ペニー・ パーカー)、玄田哲章(キングピン)
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:spider-verse.jp

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