田中圭ブレイク、異色の朝ドラ『半分、青い。』……2018年振り返るドラマ評論家座談会【後編】
2018年も、各局から多種多様なTVドラマが放送された。リアルサウンド映画部では、1年を振り返るために、レギュラー執筆陣より、ドラマ評論家の成馬零一氏、ライターの西森路代氏、横川良明氏を迎えて、座談会を開催。
『アンナチュラル』『フェイクニュース』『獣になれない私たち』と3作の脚本を手がけた野木亜紀子はじめ女性脚本家の飛躍について話し合った前編に続き、後編では、2018年大ブレイクを果たした田中圭の魅力や2019年期待の俳優・女優たち、そしてNHK朝ドラについて語り合った。
『おっさんずラブ』と『けもなれ』、田中圭は“ブラックホール”?
成馬零一(以下、成馬):今年の顔といえば、田中圭ですが、なんであんなに人気が出たと思いますか? 僕も面白い俳優だなぁと思って見ていたのですが、うまく言語化できないんですよね。
西森路代(以下、西森):それは『おっさんずラブ』効果が大きいんじゃないですか?
成馬:うまく言葉にできない感じが面白いなぁと思っていて。『獣になれない私たち』(以下、『けもなれ』)でも、京谷(田中圭)が一番面白いじゃないですか。設定だけみると、恒星(松田龍平)の方が作り込んでいてミステリアスな男のはずだけど、画面に映っている姿を見ると京谷の方がミステリアスに見える、ブラックホールみたいなヤバい魅力があるんですよね。
西森:私もツイートで「京谷というブラックホール」ってつぶやいてるんですよ。
横川良明(以下、横川):ブラックホール……。
成馬:昔だったら松田龍平がミステリアスな役のはずですけど。『カルテット』でも、役柄の魅力としては高橋一生の方が勝っていたと思うんですよ。去年が高橋一生の年だとしたら、今年は田中圭の年ですよね。逆に今までミステリアスだった松田龍平から謎が消えかけている。『けもなれ』も恒星が一番分かるんですよね、人として理解できるというか。ステータスだけ見ると、恋人がいて家族もいて、一般企業に務めている京谷が一番分かりやすいはずなのに、一番分からない。
西森:それは変わってきたんだと思いますよ。昔だったら、恒星が分かりにくい人だったけど、野木さんの活躍とともに分かりにくかったものが主流になりつつあって、王道だったものの中にあった実はわからなかったところが浮き彫りになったのが京谷で。
成馬:だから『おっさんずラブ』も、春田(田中圭)のブラックホールにみんなが飲まれていく話なんだなって、『けもなれ』の京谷を見た後で振り返ると感じるんですよね。春田がなぜモテるかよく分からないんだけど、そのことによって、どんどんおかしな話になっていくのがすごく面白い。
西森:いたって普通の人の方がブラックホールというのは、最近すごくあると思います。『中学聖日記』の町田啓太もそうですよね。「普通」っていうことが、どんどん成立しなくなってる世の中のなかで、それを貫こうとしている人の違和感が浮き彫りになって、一方で松田龍平がどんどんまともに見えてくる。
成馬:真面目に働いていて「君を幸せにするよ」と言うような人ですよね。不特定多数の人が抱いている理想の、そして平凡な男性像みたいなものが一番おかしなことになっている。
西森:まともを貫こうとしすぎて壊れる感じが怖いですからね。みんな、ちょっと壊れるぐらいが普通じゃないですか。
横川:たぶん、自分も含めて田中圭ファンは逆で、「まっとう」とは思ってないというか。『おっさんずラブ』の春田に関しては、「あいつがモテる理由が分からない」っていう意見を聞くことがあるのですが、OL民からすると、分からない理由が分からない(笑)。魅力の塊でしかなくて、こんなのみんなが好きになるよね! って。第1話のシーンで、林遣都が来て、チラシ配りを教えてあげるじゃないですか。その時の、「やってみ」みたいな言い方や、年上だけど偉そうにもしないし、へいこらするわけでもない。人に対してフラットですよね。
西森:私も春田が人に好かれることはすごくわかるんです。ブラックホールっていう意味は、人の好意とかも全部吸い込んじゃうみたいな意味で、だからモテるっていうこと自体がブラックホール。もちろん田中圭さん本人が、というより春田や京谷という役にそれを感じるわけですけど。
成馬:一見、平凡で普通に見えるものの中に、なんだかよくわからないものが宿っている。好きになるって悪いことじゃないけど、好きになったら大変になっちゃうわけじゃないですか。だから、『おっさんずラブ』も黒澤部長(吉田鋼太郎)は狂っちゃって、奥さんもその被害を受ける。どっちかって言ったら優しすぎるんですよ。『けもなれ』の京谷は元恋人で引きこもりになったからって、朱里(黒木華)をマンションに住まわせる。いいことだけど、晶(新垣結衣)からしたらたまったものじゃない。でも、本人には悪いことしているわけじゃないから、強く言えないという。
西森:『きみが心に棲みついた』は向井理が、怖い人をストレートにやっていて、それにはブラックホール感がないですよね。吸い込まれそうなんだけど、我に返れば、この人とは距離をおいて終わりにしよう、と決断できるわけですし、しかもその怖さは、やっぱり今までに見たことがある種類なので、想像がつくんですよね。
横川:なるほどなるほど。田中さんってどこまでも正直で平和的な感じじゃないですか。視聴者もそういう平和なものを愛でたいという気持ちはあるんじゃないでしょうか。バラエティなどに出た時の対応など見ていても、人を傷つけないし、落ち着いている。田中さんの愛される理由はそこにあると思うんですよね。でも、2016年は星野源、2017年は高橋一生と続いて、今年は田中圭と30代の男性が続きますよね。