田中圭ブレイク、異色の朝ドラ『半分、青い。』……2018年振り返るドラマ評論家座談会【後編】

2018年ドラマ評論家座談会【後編】

2018年のドラマは社会的なテーマを扱って当たり前

成馬:社会的なテーマを扱うことが今は当たり前になってますよね。労働問題やジェンダー、あるいは外国人労働者の問題を扱ったドラマは、案外恋愛ドラマよりみんな観ちゃう可能性がある。もちろんエンターテイメントの枠におさめてはいるんですけど。

西森:『女子的生活』とかもそうですね。そういう傾向は去年よりさらに強くなったかもしれない。

成馬:去年、この座談会をした時は、宮藤官九郎の『監獄のお姫様』のように、男性の脚本家が女子の共同体を描いて、それが#MeToo運動と同時代的だったという話をしました。今年は逆に、女性脚本家の活躍が目立って、男性脚本家ではピンとくる人があまりいなかった。同時に、あまり理想化もしてなくて、そういった問題を扱うこと自体がどんどん当たり前になってきているのかなぁと思います。同時にポリコレやフェミニズムに関する意識も、加速度的にシビアになってきてますよね。

西森:そうですね。だからこそ野木さんが今を代表する脚本家なんだと思います。でも、去年の話からすると、今年でここまで進むとは正直思わなかったですね。いい意味でですけど。

ーーそんな中、1月から始まる『ちょうどいいブスのススメ』のタイトルへの突っ込みも多かったですね(※編集部注:座談会の後日、タイトルが『人生が楽しくなる幸せの法則』に変更)。

成馬:僕が2位に挙げたNetflixの『宇宙を駆けるよだか』はまさに美醜の問題を扱ったドラマで、入れ替わりものの学園ドラマなんですよ。かわいくて性格の明るいヒロインが、太っていて陰気なクラスメイトと容姿が入れ替わるところから物語が始まるのですが、実は背景に貧困の問題もあって容姿の美醜と心の美醜は関係するのか? という問いかけがずっと続くハードなドラマとなっている。『ライアーゲーム』『人は見た目が100パーセント』の松山博昭さんが監督を務めていて、後半になるほどゲーム的になっていくのも面白かったです。今は、こういった作品は今の地上波ではできないですけど、Netflixならできるんですよね。美醜の問題やるんだったら、この作品ぐらい突き詰めてほしいと思います。

西森:『ちょうどいい~』は、タイトルを変えたところで、女性が他人のための「ちょうどいい」自分、扱いやすい自分を目指したほうが、サバイブしやすい=幸せなんですよ、ということを描くんだなということが見えてしまっているので、どっちにしろ抑圧なんですよね。もちろん、それは導入にすぎなくて、そこをとことん見据える、とかだったらいいなと思いますけど、たぶんないですよね……。

成馬:美醜の問題って、10代の若い子にとってはすごく切実な問題じゃないですか。でも、今の地上波では10代向けの若者ドラマがどんどん減っている。その代わりWEBドラマが受け皿となっていて『放課後ソーダ日和』のような傑作も生まれている。今年は、ネットドラマの傑作が多かったのですが、2019年は、その流れが静かに加速していくのではないかと思います。

若いクリエイターの活躍

成馬:今年は若いクリエイターが活躍した1年でしたよね。『おっさんずラブ』の貴島彩理さんは90年代生まれの28歳で、一番若い人がヒット作を出した。それがテレ朝の深夜から出てきたというのが面白いですよね。プロデューサーは、今はまだ60年代生まれが強くて、70年代生まれ以降の名物プロデューサーは少なかったのですが。今年は世代交代の兆しが見えましたね。一方今面白い脚本家は野木さんを筆頭に70年代生まれに集中している気がします。昭和と平成、インターネットが普及する以前と以降の社会の変化を知っているから今の社会が描けるんだと思います。さらに下の世代になると、何か表現したいと思った時に、スマホ1台あれば、ユーチューバーみたいに自分で撮って編集できるので、1人で脚本をじっくり書こうという方向には意識がいかないのかなぁと思います。全部1人で作る感覚が当たり前になってくると、才能のあり方も変わっていきますよね。そういう人は少人数で作れるWEBとは相性が良いので、今までとは違う作品を生み出すことを期待してます。

横川:そこで言うと、個人的に期待しているのが松居大悟ですね。福田さんは、やっぱりすごくサービス精神があって、45分をどう見せるかをちゃんと考えて作ってくれているなと。今ドラマの楽しみ方も細分化していく中で、『今日から俺は!!』や『ぎぼむす』みたいに、みんなが見れるコンテンツを誰が作っていくか。作品性が高いものを作る一方で、ちゃんと20%ぐらい視聴率が出て、みんなで楽しかったよねと言えるコンテンツを作ってくれる人が、僕はちゃんといてほしい。松居大悟はもともと演劇の人で、彼のつくる映画はやや間口が狭いところがある気はしますが、『バイプレイヤーズ』はちょうどいいバランス感だったと思うんです。プロデューサーやディレクターとの相性もあると思うのですが、数年後そういう存在になってくれるのかなと期待しています。

『恋のツキ』(c)新田 章/講談社 (c)「恋のツキ」製作委員会

西森:私も若い人が入ってくることはいいと思います。『恋のツキ』も演出が若い人が多かったそうですが、映像にしても、リアリティにしても、ちょっと今までとは一線を画すものだったなと思います。あと、それを起用する人が、ちゃんとその人のいいところをわかってないと生かせないので。『恋のツキ』は、そこがうまくいったんだと思いますけど、そういう責任は上の世代には出てくると思います。

(取材・文=若田悠希)

■公開情報
『劇場版 おっさんずラブ(仮)』
全国東宝系にて2019年夏ロードショー
監督:瑠東東一郎(TVドラマ版監督)
脚本:徳尾浩司
音楽:河野伸
出演者:田中圭、林遣都、内田理央、金子大地、伊藤修子、児嶋一哉、眞島秀和、大塚寧々、吉田鋼太郎ほか
製作:テレビ朝日ほか
配給:東宝
配給協力:アスミック・エース
(c)テレビ朝日

■放送情報
『おっさんずラブ 映画化決定記念!新春イッキ見SPだお』
1月2日(水)6:55~13:00 
※11:45~12:00はニュースで中断
※関東ローカル放送(他系列局での放送、現在調整中)

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