“ちょっとだけ普通じゃない”高橋一生が教える生き方 『僕らは奇跡でできている』が放つメッセージ
一事が万事、この調子なのである。「戦いに勝ったものが、生き残ったわけではないのです」(第1話)、「昔の僕は僕が大嫌いで、毎日泣いていました」」(第2話)、「誰でもできることは、できてもすごくないんですか?」(第7話)……ふとしたきっかけで訥々と語られる一輝の言葉は、ある種不意打ち的に、相手の心はもちろん、我々の心をもハッと深く揺り動かす。そこで誤解してはいけないのは、一輝は必ずしも“聖人君主”のような人物ではないということだ。毎回冒頭で少しだけ描かれる彼の少年時代を見てもわかるように、彼は他人とは違う自分の感性に戸惑い、悩んでいた。それこそ「毎日、泣いて」いたのだ。しかし、彼は一緒に森のなかで暮らす祖父(田中泯)の助言によって、自らの“楽しい”と“面白い”を自身のなかにある“光”として、大事に育てることを自ら選び取ったのだ。
そして、第8話で唐突に明かされた、一輝の身の回りを世話する家政婦(戸田恵子)との関係性と過去のある出来事。さらに言うならば、そんな一輝にとって大学講師という職に就くという選択は、“他者との関わり”という意味で、ひとつの“冒険”でもあったのだ。だからこそ、一輝はこれまで以上に積極的に人と関わろうとし、ときに摩擦を生もうとも、その人たちを深く知ろうと、人知れずあがいてきたのだ。そう、このドラマは、一輝に感化されていく人々の物語であると同時に、彼らと関わることによって、これまでの自分を変えようとする、一輝自身の物語でもあるのだ。
さて、前回第9話で、「僕が水本先生のことをどう思っているのかわかりました。僕は……」と、育実に対する正直な思いを唐突に“告白”しながら、その最後に「つまり僕は、水本先生のことが……面白いです」と発言し、育実を困惑させた一輝は、その後、心を開き始めていたはずの同僚・樫野木先生(要潤)に、タイミングの悪い言葉を投げ掛けたことによって、彼の逆鱗に触れてしまう。「黙れ! そりゃあさ、相河先生みたいになれたら幸せだよね……」から始まる樫野木の発言は次第にエスカレートしてゆき、挙句の果てには「迷惑なんだよ、悪影響なんだよ、ここから消えて欲しい」とまで言い放たれてしまうのだ。もちろん、これは明らかに言い過ぎだ。けれども、表情をこわばらせ、目元を潤ませた一輝は、ひと言も言い返すことなく、その場を立ち去ってしまうのだった。
その後、鮫島教授に、「樫野木先生が問題だと思ってることって、本当に相河先生なのかな?」、「樫野木先生って、たまに自分の課題をすり替えることあるじゃない?」、「今回のこともさ、相河先生のせいにしておけば、向き合わずに済むことがあるんじゃないの?」と諭される樫野木だが、彼の表情もまた、こわばったままだった。果たして最終回、2人の関係性は、どうなってしまうのか。一輝は、このまま大学を去ってしまうのだろうか。そう言えば、一輝は前回、部屋でひとり、なぜかロシア語の勉強をしていたけれど……ヤニパニマーニョ? いや、そもそも急接近したようにも見えた育実との関係性は、どうなってしまうのか。そのクライマックスに登場する、すべての人物たちの“決断”に注目したい。
■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「リアルサウンド」「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。Twtter
■放送情報
『僕らは奇跡でできている』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週火曜21:00~21:54放送
出演:高橋一生、榮倉奈々、要潤、児嶋一哉、西畑大吾(関西ジャニーズJr.)、矢作穂香、北香那、広田亮平、田中泯、トリンドル玲奈、阿南健治、戸田恵子、小林薫
脚本:橋部敦子
音楽:兼松衆、田渕夏海、中村巴奈重、櫻井美希
演出:河野圭太(共同テレビ)、星野和成(メディアミックス・ジャパン)、坂本栄隆
プロデューサー:豊福陽子(カンテレ) 、千葉行利(ケイファクトリー)、宮川晶(ケイファクトリー)
主題歌:SUPER BEAVER「予感」([NOiD] / murffin discs)
オープニング曲:Shiggy Jr.「ピュアなソルジャー」(ビクターエンタテインメント)
制作協力:ケイファクトリー
制作著作:カンテレ
(c)関西テレビ
公式サイト:https://www.ktv.jp/bokura/index.html