草彅剛が『終幕のロンド』追求する自然体のリアリズム 2025年は大充実の1年に

『終幕のロンド』草彅剛の自然体のリアリズム

 12月22日に最終話を迎える『終幕のロンド -もう二度と、会えないあなたに-』(カンテレ・フジテレビ系)は、草彅剛の役者としての現在地を映す作品だ。

 2025年は草彅にとって大充実の1年だった。1月に舞台『ヴェニスの商人』を主演として完走すると、3月には前年公開の映画『碁盤斬り』で第48回日本アカデミー賞の優秀主演男優賞を受賞。4月には『新幹線大爆破』(Netflix)が非英語映画作品としてグローバルチャートで2位を記録し、国内でも4週連続で配信1位を獲得した。2025年11月からはヘルマン・ヘッセ原作の舞台『シッダールタ』で迫真の演技を披露するなど、あらためて俳優・草彅剛を知らしめたのが2025年だった。

 今作で草彅は遺品整理人の鳥飼樹を演じている。樹は妻を病気でなくし、一人息子の陸(永瀬矢紘)を育てながら、遺品整理会社「Heaven’s messenger」で働いている。社長の磯部(中村雅俊)が設立した同社で、樹はチーフの海斗(塩野瑛久)たち同僚と協力しながら、故人の遺品整理に取り組む。

 今作の草彅は終始穏やかで、一定のトーンを保っている。声を荒げる場面はほとんどない。それなのに草彅の芝居に引きつけられている自分がいる。押しつけがましいオーラは皆無だがじっと見てしまう。心地よさと空気感に心をほだされる。

 草彅の役者としての評価は確立しており、あえて言葉を重ねる必要はないかもしれない。等身大の人物像を形にする草彅はまぎれもなく演技派であり、主演俳優として映画やドラマに欠かせない一人だ。

 その上で、今作の草彅を観ていると、これまで培ってきたものが随所にあらわれているように見える。草彅自身の人間性だったり、細かなやり取りや仕草にあらわれる演技力だ。滋味豊かな自然体のリアリズムとも呼べるものが、そこにあるように感じる。

 草彅といえば、代表作が多々あるなかで、カンテレ制作の『僕の生きる道』からはじまる「僕シリーズ3部作」や『銭の戦争』『嘘の戦争』『罠の戦争』の「戦争シリーズ」がよく知られている。僕シリーズでは、余命宣告を受けた教師、一人娘を育てるシングルファーザー、自閉症スペクトラムの青年をそれぞれ演じた。いずれも難役であるが、困難に直面する主人公の現実に肉薄する役作りが大きな反響を呼んだ。

 草彅については、余命わずかな主人公を演じるため、絶食して撮影に臨んだというエピソードが伝わっており、役作りに対して一切妥協しない姿勢が見て取れる。その上で、最近のインタビューを見ると、あえて役を作り込むことはしないと語っており、出演作を重ねる中で、独自のメソッドを築いてきた。

草彅剛「縁も作品も全部がつながっている」 『いいひと。』から『終幕のロンド』に至るまで

草彅剛が主演を務める月10ドラマ『終幕のロンド -もう二度と、会えないあなたに-』(カンテレ・フジテレビ)がいよいよスタートする…

 作品によって台本を読まずに現場に臨む草彅だが、それでいて本番テイクで最高の演技をすると共演者が証言するなど、こちらの理解が追いつかない天才ぶりを発揮するのが草彅で、今なお役者として進化を続けている。

 草彅の特徴は、同じ元SMAPの木村拓哉と比較するとわかりやすい。木村が役の職業やキャラクターを徹底して探究し、事前に練り込むタイプだとすると、草彅はキャラクターの芯にあるものを直感的に把握し、瞬間瞬間に出力するタイプと言えないだろうか。ともに最高の役者である草彅と木村は、切磋琢磨することで唯一無二の存在になってきた。

 たとえば戦争シリーズの主人公や『碁盤斬り』柳田格之進のような激情を発散する際のすさまじさは、それが草彅にとって自然なことだからだろう。理不尽に対する怒りや、大切な人との別れで見せる悲しみの深さは、草彅剛という人間のフィルターでろ過されることで、より純度の高い情感を帯びたものになる。そうやって湧き出たものだから、多くの人の共感を得られるのだと思う。

 自然体で演技をしていないようにすら見えるときがある草彅は、視聴者や観客との距離が近いと感じる。もちろんそれは心理的な距離で、バリアを設けない、ありのままの自分を差し出す姿勢がそう感じさせているのではないだろうか。余計なものをつけくわえない演技を観ていると、こちらも肩の力が抜けて自然体の自分に戻れる気がする。これからも素敵な芝居を見せてもらえたらうれしい。

『終幕のロンド -もう二度と、会えないあなたに-』の画像

終幕のロンド -もう二度と、会えないあなたに-

『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』の高橋美幸が脚本を手がけたヒューマンドラマ。遺品整理人である主人公が、遺品整理会社の仲間たちとともに、さまざまな事情を抱えた家族に寄り添っていく。

■放送情報
『終幕のロンド -もう二度と、会えないあなたに-』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00~放送
出演:草彅剛、中村ゆり、八木莉可子、塩野瑛久、長井短、小澤竜心、石山順征、永瀬矢紘、要潤、国仲涼子、古川雄大、月城かなと、大島蓉子、小柳ルミ子、村上弘明、中村雅俊、風吹ジュン
脚本:高橋美幸
演出:宝来忠昭、洞功二
演出・プロデューサー:三宅喜重
プロデューサー:河西秀幸、三方祐人、阿部優香子
音楽:菅野祐悟
主題歌:千葉雄喜 「幸せってなに?」 (Warner Music Japan)
制作協力:ジニアス
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/shumaku-rondo/
公式X(旧Twitter):@shumaku_rondo
公式Instagram:@shumaku_rondo

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる