年末企画:小田慶子の「2018年 年間ベストドラマTOP10」 牽引する人々の世代交代が進む

小田慶子の「2018年 年間ベストドラマTOP10」

6位『平成細雪』

 真の意味で大人の鑑賞に耐えうる作品。美意識にあふれた谷崎潤一郎の『細雪』(中央公論社)が成立するギリギリの時代、バブル崩壊直後の平成4年を舞台にし、船場の豪商の娘として生まれた四姉妹の物語を華麗な衣装で彩った。長女役の中山美穂にはやはりこういったお姫様のような役が似合うし、次女役の高岡早紀も他のドラマでは悪女要素が強かった中、ここではお嬢様の鷹揚さとかわいらしさだけで勝負。三女の伊藤歩、四女役の中村ゆりも光っていて、女優を活かしたという点では今年ベスト。男性キャストも絶妙な配役で、「おじさんじゃない」とディスられる三女のお見合い相手として松尾スズキが登場した瞬間には爆笑してしまった。『京都人の密やかな楽しみ』(NHK BSプレミアム)で関西独自のカルチャーを描き出した源孝志監督らしい文化の香りと、脚本・蓬莱竜太の緩急自在な心理描写に拍手。

7位『昭和元禄落語心中』

 『デイジー・ラック』『透明なゆりかご』など、漫画原作を実写でうまく昇華してきたNHKドラマ10が、2018年の最後に本気度120%のすごい作品をぶっこんできた。八雲(菊比古)役の岡田将生、助六役の山崎育三郎、与太郎役の竜星涼が難しい古典落語に挑戦し、3人とも攻めに攻めた芝居を披露。特に岡田は老年期のパートが長く、老けメイクをしてこれまでのイメージを覆す熱演だった。人気キャストがこれまでの殻を破ってギラギラした顔を見せてくれるのは、なんとも楽しいもの。長編の原作コミックからそのエッセンスを抽出した羽原大介の脚本、BL(ボーイズラブ)要素の強い菊比古と助六の関係を美麗な映像で彩ったタナダユキの演出にもうなった。落語の魅力を伝えた本作から、“落語の神様”古今亭志ん生が登場する2019年大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(NHK)へとつながり、“おあと”もよろしいようで。

8位『トドメの接吻』

 もし、「キス」「タイムリープ」「復讐」で三題噺を書けと言われても、こんなに上手くは作れない。いかにも漫画原作がありそうなストーリーをドラマオリジナルで見せた快作。主人公は山崎賢人演じるホストの旺太郎。門脇麦演じる宰子が“サイコ”なストーカーのように登場し、彼の唇を奪って絶命させるが実は……というどんでん返しが見事。キスすると1週間前の時間軸に戻れるというゲームリセットのような設定を巧みに使った脚本・いずみ吉紘の手腕が光る。ティーン向けのドラマで『花より男子』シリーズ(TBS)のような王道ラブコメはやり尽くされた感があるので、こういったダークなラブストーリーも定期的に制作し若い視聴者を呼び込んでほしい。山崎はこのクズ男役で新境地を開いた感あり。7月クールの『グッド・ドクター』(フジテレビ)では正反対の役柄を演じ、2018年は飛躍の年だったのでは。

9位『女子的生活』

 今年は『隣の家族は青く見える』(フジテレビ)、『おっさんずラブ』、『弟の夫』(NHK)とLGBTを描くドラマが多く放送され、「そろそろ同性間の恋愛や結婚をタブー扱いするのやめようよ」ぐらいのスタンスで周知が始まったと思いきや、先陣を切った本作のぶっ飛ばし方は半端なかった。主人公は男として生まれたが女として生きるみき(志尊淳)。その設定を理解するかしないかのうちに、みきがビッチな女と関係したり、実家のある田舎に帰って女の姿で親兄弟と対面したりと、飛ばす飛ばす! そのドライブ感によって、LGBTのT(トランスジェンダー)1文字だけでは捉えきれない複雑でリアルなセクシャリティを描き、興味本位の視線や安易な同情を拒んでいた。しかし、この役を真摯に体現した志尊が、その直後に朝ドラ『半分、青い。』で「僕ってゲイだから」と安易にLGBTをカテゴライズするような役を演じていたのを見たときは、複雑な気持ちになってしまった。

10位『生田家の朝』

 12月に情報番組『ZIP!』内で放送された“朝ドラ”。プロデュースと主題歌が福山雅治で、脚本はバカリズム。「日本テレビで朝ドラを作ろう!」という企画が持ち上がった段階では、北島三郎のマネージャーの苦労話など、NHKの朝ドラに近い実録的な感動物語も検討されていたが、この路線にして大正解。郊外の一軒家に暮らすごく普通の4人家族の朝のやりとりという内容に落ち着いた。コント作家であるバカリズムらしさを活かし、かつNHKとは異なる新しい朝ドラを提案するならこのスタイルしかない。子持ち家庭あるあるのネタ選びがうまいし、10分未満という短さも今の視聴者のニーズにぴったり。今回はテストケースだと思うが、アメリカのシットコムのように1話完結型の朝ドラをぜひレギュラー放送してほしい。

※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記

■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。

■公開情報
『劇場版 おっさんずラブ(仮)』
全国東宝系にて2019年夏ロードショー
監督:瑠東東一郎(TVドラマ版監督)
脚本:徳尾浩司
音楽:河野伸
出演者:田中圭、林遣都、内田理央、金子大地、伊藤修子、児嶋一哉、眞島秀和、大塚寧々、吉田鋼太郎ほか
製作:テレビ朝日ほか
配給:東宝
配給協力:アスミック・エース
(c)テレビ朝日

■放送情報
『おっさんずラブ 映画化決定記念!新春イッキ見SPだお』
1月2日(水)6:55~13:00 
※11:45~12:00はニュースで中断
※関東ローカル放送(他系列局での放送、現在調整中)

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