年末企画:小田慶子の「2018年 年間ベストドラマTOP10」 牽引する人々の世代交代が進む

小田慶子の「2018年 年間ベストドラマTOP10」

1位『おっさんずラブ』

 2016年の単発版の完成度が高く、かつ同性愛を描くラインとしてはギリギリのおふざけ感だったので、実は連続ドラマ版のスタート時は半信半疑。主人公の春田(田中圭)が同性を好きになったその先をどう描くのか? 下手したらただのBL(ボーイズラブ)になっちゃうぞ、難しいぞコレと心配しながら見ていた。ところが毎回、綱渡りをするように絶妙のバランスで男5人+女2人の恋が展開していき、誰かが誰かを性別や年齢という属性で否定することもなく、結果的に老若男女全方位に優しいラブファンタジーができあがった。しかも毎回、爆笑できるという奇跡的な作品に。春田の上司である黒澤部長(吉田鋼太郎)と後輩の牧(林遣都)のキャットファイト(ここでは「おっさん」「ガキ」という年齢でのディスりがあった)、春田が牧と武川主任(眞島秀和)の手つなぎを見てしまうなど、シチュエーションのひとつひとつが面白く、それを演技経験豊富なキャストがふくらませて伸び伸びと演じているから盛り上がる。脚本の構成上「あれっ?」と思ったのは、第6話まで黒澤が春田を好きということは職場では伏せられており、それが黒澤の葛藤にもなっていたのに、最終話であっさり職員全員がそのことを把握し理解を示していたという点だけ。その違和感すらも純愛を地で行く感動のプロポーズの前に消し飛んでいった。キャストとスタッフがこの世界観に本気で入れ込み、この物語を愛して作り上げたからこそ、理屈抜きで感情を持っていかれるパワーに満ちていた。

 また、テレビ雑誌の仕事をしている身としては、特集を組むと部数が増えるほどの影響力があるドラマというのがここ数年(下手すれば10年以上)なかったので、久しぶりに「雑誌が売れる!」という感覚を味わいながら、楽しく取材をさせてもらった。ドラマとしてウェルメイドだっただけでなく、ブームを巻き起こし、経済を動かしてくれたということへの感謝も込めて1位に推す。

2位『アンナチュラル』

 石原さとみ演じるミコトが職場で天丼を食べるところから始まり、同じく天丼を食べる場面で終わる。法医解剖医という職業が生きることとイコールになっているヒロイン像がかっこいい。そのミコトがさまざまな遺体の死因を探っていく中、婚約者を殺された男性が犯人に刃物を振り下ろすなど、暴力が振るわれる瞬間をはっきりと写し撮る演出も攻めていた。アメリカのサスペンスドラマのように、シビアな現実を可視化しながら、そこから逃げずに立ち向かうプロフェッショナルな女性を描き、しかも映像がスタイリッシュという作品が誕生して、うれしい。脚本の野木亜紀子は今年、本作と『獣になれない私たち』(日本テレビ)、『フェイクニュース』(NHK)というオリジナルの3作が放送され、そのいずれにもヒロインが男性から“裏切られる”という要素が入っていた(本作では窪田正孝演じるアルバイトが裏切る)。今の日本のように男女格差が大きい社会で生きるということは、直接的または間接的に、女は男に裏切られているということになるのかもしれない。

3位『コンフィデンスマンJP』

 日本では珍しいコンゲーム(信用詐欺)ものということで注目されたが、楽しみ方としてはアニメ『ルパン三世』のようにハチャメチャなキャラクターの魅力を味わうのが正解。長澤まさみが怪演したダー子は詐欺の天才で自信過剰なルパン的存在。すぐ「(詐欺から)足を洗う」と言い出す“ボクちゃん”(東出昌大)が五右衛門なら、小日向文世が演じたリチャードは次元のポジション!? 第4話の「映画マニア編」など撮影も大掛かりで、予算と時間をかけて作られたドラマの贅沢感を味わせてくれた。脚本家・古沢良太の作品と考えると、恋愛機能不全世代を描いた名作『デート〜恋とはどんなものかしら〜』(フジテレビ)のような“今”ならではのテーマを求めてしまうが、純粋なコメディとしてこれはこれでアリ。気になったのは、最終話のチーム結成秘話を含め、画商や来日女優、卓球選手など、中国人だからという安易な理屈で納得させるパターンが多かったこと。映画版は香港が舞台になるそうだが、だいじょうぶ?

4位『義母と娘のブルース』

 回が進むにつれ視聴率がアップした今年最大級のヒット作。前半で笑わせ後半で泣かせるという構成は『おっさんずラブ』にも通じ、これからのヒットの法則になるか? “義母”亜希子を演じた綾瀬はるかがとにかくすばらしく、その夫役の竹野内豊、“娘”みゆき役の上白石萌歌(子役の横溝菜帆も)、佐藤健という共演者と共に、優しい気持ちになれるアンサンブルを奏でていた。ヒットドラマにはその時代の社会的背景が描かれているものだが、本作では女性の晩婚・非婚化から、養子縁組が難しく親になる力がある人に子育ての機会が回ってこない現状、シングルマザーにとって子育てと仕事の両立が難しいこと、さらには商店街の個人商店の経営難まで、現代日本の“どげんかせんといかん”問題が盛り込まれ、それを手練れの脚本家である森下佳子が深刻にならない温度で絶妙に描いていた。ただ、女性が夫の死後ひとりで苦労して子供を育て再婚しないという大筋だけ見ると、まるで吉永小百合主演映画のようで、“貞女二夫に見えず”(佐藤健を振るとは!)という物語の方が、まだ日本では受け容れられやすいのかなぁとも。

5位『dele』

 スマートフォンなどのデジタルデータを持ち主が死んだ後に削除するという職業はまだ一般的ではないし、同じ制作陣の『BORDER 贖罪』(テレビ朝日)のように主人公が闇落ちするようなスリルもなかったからか、人気が“跳ねた”感触はなかったが、山田孝之と菅田将暉のコンビはドラマファン垂涎。ヒゲ面ではない“きれいな山田孝之”が早口でややオタクなプログラマー・圭司を演じ、菅田が心優しい青年・祐太郎の役。シャープな演技を見せる2人のやり取りを存分に堪能できた。33歳と25歳という年齢差があるがゆえに、最終話、既得権益を守る大人たちを倒そうとする若き祐太郎と、もはや世の中の不条理を受け入れかけていたが祐太郎に触発されて立ち上がる圭司という関係性に変化し、そこが最高にエキサイティングだった。山田が車椅子に座ったままやってのけたアクションも他では見たことのないもので新鮮だった。

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