『ヴェノム』はなぜ批評家と観客の間で評価の違いが生じたのか? 『ブラックパンサー』と比較検証

『ヴェノム』なぜ批評家と観客で評価が違う?

 近頃のアメリカは、移民を排除しようとする動きや人種差別行為、さらに貧富の差の拡大など、市民の分断が問題となっている。それは同時に、世界的に進行している現象でもある。ヴェノムたちのように譲り合い妥協しながら、何とかかんとかやっていくことで、「分断」される未来でなく「共生」する未来へ進んでいくこと。これが『ヴェノム』のベースにある思想である。それは、身体に乗り移る能力を持つ異星生物と、人間のコンビという設定を持つ本作だからこそ、強く描くことのできるテーマではないのか。

 描かれるテーマにおいて、『ヴェノム』と『ブラックパンサー』に、批評家の極端な判断程の差は無いのではと感じられる。批評家一人ひとりによって評価のポイントは異なるだろうが、今回の事例のように、ことにアメリカの批評の傾向は、ときに一つの流れに向き過ぎる場合があると感じられる。『ヴェノム』における批評家の反応と観客の動向のアンバランスさは、その状況を暴き出しているのではないだろうか。また、この現象は同時に、批評家の意見が観客に及ぼす影響が低下していることを意味しているかもしれない。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『ヴェノム』
全国公開中
監督:ルーベン・フライシャー
脚本:スコット・ローゼンバーグ&ジェフ・ピンクナー、ケリー・マーセル、ウィル・ビール
出演:トム・ハーディ、ミシェル・ウィリアムズ、リズ・アーメッド、スコット・ヘイズ、リード・スコット
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
(c)&TM 2018 MARVEL
公式サイト:http://www.venom-movie.jp/
公式Twitter:@VenomMovieJP/

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