『ヒモメン』窪田正孝の“憎めなさ”はコジコジに通じる? コメディアンの実力発揮し全方位俳優へ
ついに最終回を迎えるドラマ『ヒモメン』(テレビ朝日系)。無職の主人公・碑文谷翔(窪田正孝)は筋金入りのヒモ男。「楽して生きたい」をモットーに、恋人のゆり子(川口春奈)の家に転がり込み、家事も生活費もすべてゆり子任せ。自身はのんきにソファに寝転がっているだけで、たまに外に出たかと思えばパチンコに競馬。せっかく手に入れたお金はいつもギャンブルで水の泡になってしまうという、連ドラの主人公としては異色のダメ人間だ。お金がないからと言って、ゆり子の漫画や洋服を無断で売り払ったり、無料試食会目当てでゆり子を連れて結婚式場に見学に行ったり、女心もまるで無視の言動は、一部視聴者から反感の声も出た。
だが、最終回を目前に控え、今やそんなクズなところもチャームポイントとしてすっかり受け入れられている印象だ。その理由は、本作があくまでヒモの実態ではなく、「せわしない毎日を生きる現代人への幸せのヒント」に主眼を置いて描かれていたから。
確かに働かない翔ちゃんはどうしようもない男だが、遊んで暮らしたいは人間の偽らざる本音。先日、惜しまれながらこの世を去った人気漫画家・さくらももこによる名作『コジコジ』でも、「向上心がなさすぎる」「遊んで食べて寝てるだけじゃないかっ」と叱責する先生に対し、主人公のコジコジは「盗みや殺しやサギなんかしてないよ。遊んで食べて寝てるだけだよ。なんで悪いの?」と切り返している(さくらももこ『コジコジ』第1巻より)。このコジコジの名言に目からウロコが落ちた読者も多いだろう。
翔ちゃんも同じだ。興味が向かないことを嫌々やっても仕方ない。頑張ることは素敵だけれど、自分に嘘をついたり、意に沿わぬ組織や上司に魂を売り渡してまで、頑張りすぎることはない。ありのままで、素直に生きていこう。全話を通じて、翔ちゃんはそんなメッセージを体現していた。
翔ちゃんが唯一何よりも守りたいのは、大好きなゆり子のそばにいること。今なお日本には家族の看病で会社を休んだり、プライベートの用事のために有休を使うことに対して、非難めいた視線を向ける風潮が残っている。そんな前時代的な価値観を軽やかにスルーし、翔ちゃんは「最優先はゆり子」というポリシーを貫き通した。度を超えたクズでありながら、最終的に多くの視聴者が「翔ちゃん」「翔ちゃん」と愛称で呼んでいたのも、こうした姿に少なからぬ憧れと共感を抱いたから。サクッと楽しめるコメディとしてのクオリティの高さと、現代的な仕事観・生活観にマッチしたコンセプトが、作品の魅力の基盤となった。