浅野忠信×神木隆之介のコンビはなぜ最高だったのか 日本ドラマ史に名を刻んだ『刑事ゆがみ』
2017年10月期に放送されたドラマ『刑事ゆがみ』のBlu-ray&DVDが3月28日に発売される。他ならぬ私自身も『刑事ゆがみ』もとい、浅野忠信と神木隆之介演じる弓神適当と羽生虎夫コンビの1ファンなのだが、このコンビがなぜ最強だったのか、さらにはこのドラマがなぜ面白かったのかということを再度検証してみたい。
『刑事ゆがみ』は、井浦秀夫原作、『ガリレオ』(フジテレビ系)、『昼顔』(フジテレビ系)の西谷弘が演出を手がけた1話完結型のいわゆる「バディもの」の刑事ドラマだ。のらりくらりとしながら、ときに違法捜査も厭わず真実を見抜く弓神と、真面目で成績優秀だが出世欲の塊で腹黒い一面も見せる羽生の、一風変わった先輩後輩の凸凹コンビと、稲森いずみ演じる、弓神と同期で、2人を支える男勝りの美人上司・菅能、山本美月演じる、弓神の裏のバディであり、大きな秘密を持つ天才ハッカー・ヒズミと、個性的で魅力的な登場人物たちを、それぞれ意外性がありつつも、これ以上ないハマリ役で演じた。
また、被害者・犯人役からパンティー収集家に至るまで、時に切なく、時にコミカルなさまざまな役を、毎度ビックリするほど豪華な俳優陣が嬉々として演じていたのも特筆すべきだろう。ドラマ最後の予告やSNSなどから伝わってくるドラマ製作陣の和気藹々としたムードも視聴者を楽しませてくれた。
『刑事ゆがみ』が内包していた2つの側面とは?
このドラマには、2つの側面がある。1つは羽生の成長物語としての一面。もう1つは最終的に弓神自身が抱えてきた過去の哀しい事件に行き着く、現代社会を生きる人々の孤独や不安が生み出した切ない事件を当事者視点で描くという一面である。
羽生と弓神は、多くのバディものでありがちな「正反対な2人が反目しあいながらもともに戦うことによって理解しあい、互いに成長する」という構造からなっていない。このバディを語る上で、最も重要なことは、どちらかが過度に相手に寄りかかることもなく、それぞれ独立したストーリーライン上にいるということだ。終始ほどよい距離感で、彼らはふざけ合いながら時に互いを思いやり、事件や人と対峙する。そして、そう思わせるのは、2人の違いにある。視聴者は羽生自身の人生、ならびにその未熟さと成長を見ることはできるが、弓神に関しては、いつも何かを誤魔化しながら、常に真実を最初に気付き、視聴者と羽生たちを導く側にいるために、その本心と彼の生きてきた人生は終盤にならないとわからない。
弓神と羽生は互いの見られたくない小さな秘密を隠し撮りし、相手の弱みを握ることで昼食をおごる、おごられるという「ゲーム」を繰り返し、その結果、羽生は弓神の最大の秘密、死んだはずの横島不二実(オダギリジョー)との密会現場に行き着いてしまう。8話までは基本的に弓神主導で事件が解決されることが多かった。だが、9話で弓神自身が事件の当事者へと成り代わり、そうとは気付かない登場人物たちをミスリードし始めることによって、弓神はこれまでの役割を降り、「キャプテン」羽生が、これまで弓神がしてきた、犯人を追い詰める作業を弓神に対して行い、事件に巻き込まれつつも、最終的に弓神自身を救うことになる。そしてそれは、ある意味、羽生にとって免許皆伝、1人立ちするための通過儀礼だったとも言える。
事実の裏に隠された真実
『刑事ゆがみ』の秀逸さは、例えば1話の月と虹、2話のカーテンの揺らぎと鏡の描写、過去に怯え、未来に不安を感じる登場人物たちを追い立てる「時計」はじめ、情景から読み取れる複数のイメージが様々な想像を掻き立てるものであったことも大きい。
例えば「鏡」は時に教師と生徒間の恋や、同性愛といった秘められた恋の情景を映し、さらには現実の自分とSNS上の架空の自分の狭間で追い詰められていた、りょう演じるアラフォー女性を映し、幼少期のヒズミと、彼女を疑惑の目で見ている父親・武(渋川清彦)の2人を映した。鏡が示していたのは、人が持つ2面性、表向きの事実の裏に隠された真実だ。
そして「鏡」が示す2面性は、5話以降に話の中に散りばめられる「寄生虫」、「ゴースト(透明人間)」というイメージへとつながる。そしてそれは全て、弓神が守り続けてきた山本美月演じるヒズミと、ヒズミの過去に繋がると言っても過言ではない。それまでの伏線が全て回収され、怒涛の展開だった最終回前の9・10話は、ヒズミを巡る3人の「父親」の物語だった。